しなり戻りは、飛距離を生んでいなかった 〜シャフト選びの科学(第1回・飛距離編)〜
「シャフトがしなって、戻る。あのムチのような動きが、ヘッドを加速させて飛距離を生む」 ゴルフを始めてから、何度この説明を聞いたか分かりません。私も、そう信じていました。柔らかいシャフトはよくしなるから走る、硬いシャフトはしならないから走らない。だからヘッドスピードに合わせてフレックスを選ぶのだ、と。 ところが、この「しなり戻りが飛距離を生む」という話を実際に測った研究を読んでいくと、思っていたのとは違う景色 が見えてきます。 しなり戻りの速さと、ヘッドスピードは、ほとんど関係がありませんでした。 今回から2回にわたって、シャフトの話を研究データから書きます。第1回は飛距離編 です。 この記事のポイント ✅ 重さも振り心地もそろえたうえで、柔らかいシャフトと硬いシャフトを打ち比べた研究では、しなり戻りの速さには明確な違いが出たのに、ヘッドスピードには違いが出ませんでした ✅ ヘッドスピードと強く結びついていたのは、シャフトの性質ではなく 打ち手が手元を回すスピード のほうでした ✅ ただし、33人それぞれが2本で打った球の平均を比べると、17人は、どちらか一方のシャフトのほうがはっきり速くなっていました。合うシャフトは人によって違う、ということです。フィッティングの意味は、ここにあります この記事に出てくる統計の言葉 (説明はここだけにまとめます) ・相関 = 2つの数字が、どれくらい一緒に動くかを −1 から +1 までの数字で表したもの。0に近いほど「おたがいに関係がない」、+1に近いほど「片方が大きいと、もう片方も大きい」という関係が強くなります ・統計的に有意でない = 測った数字にいくらか開きはあっても、その程度の開きは偶然でも起こりうる、という意味です。「差がゼロだと証明された」ではなく、差があるとは言えなかった ということですね ・盲検 (もうけん)= どちらのシャフトを使っているかを、打つ人に知らせずに試すやり方です。打つ人にも計測する人にも知らせない場合は、二重盲検 と呼びます。「今日は硬いほうだ」という思い込みが結果に混ざるのを防ぎます どちらのシャフトか、打つ本人にも分からないようにして打ってもらった 中心になるのは、カナダのマッケンジーとブーシェが2017年に Journal of Sports Sciences に発表した研究です。 参加したのは右打ちの男性ゴルファー33名 で、ハンディキャップの平均は12.1でした。上級者ばかりでもなく、初心者ばかりでもない、いわゆる中級者の集まりです。 この研究のすぐれているところは、シャフトの硬さ以外の条件を、徹底してそろえた ところにあります。 用意したのは、Rフレックスとよばれる柔らかいシャフト と、Xフレックスとよばれる硬いシャフト の2本。この2本は、 重さや慣性モーメント(=回しにくさの度合いのこと)など、振ったときの感じにかかわる性質を、ほぼ同じにしてある つまり、違うのは、しなりやすさだけ という状態です。そのうえで、1人が各シャフトで14球ずつ打ち、途中でシャフトが替わったことは、打つ人に知らせませんでした。終わったあとで、参加者は全員、途中で替わったことに気づかなかった と答えています。 ここまでやるのには理由があります。ふつうにシャフトを打ち比べると、たいてい重さも振り心地も違いますし、何より、「柔らかいほうを持っている」と分かった瞬間に、人は振り方を変えてしまう からです。それを全部止めたうえで、シャフトそのものの効果だけを取り出したわけですね。 あなた そこまでする必要があるんですか。打てば分かりそうなものですが……。 Torapon それが、分からないんです。私たちは「柔らかいと聞かされた」だけで、実際に振り方を変えてしまいます。試打で「このシャフト、走りますね」と感じたとき、走っているのがシャフトなのか自分なのかを、感覚では区別できません。だから、知らせずに打ってもらうんですね。 しなり戻りは、たしかに速かった。でもヘッドスピードは変わらなかった 結果を、順番に見ていきます。 まず、しなり戻りの速さ です。研究ではキック速度 と呼ばれています。シャフトが後ろにたわんでから前に戻ってくる、その戻りの速さのことです。 しなり戻りの速さ R(柔らかいほう) 1.7 m/s X(硬いほう) 1.2 m/s 柔らかいRのほうが、硬いXより0.5 m/s 速く戻っていました。これは統計的にもはっきりした違いです。つまり「柔らかいシャフトのほうがよく走る」こと自体は、事実でした。 ...