シャフトが変えていたのは、飛距離ではなかった 〜シャフト選びの科学(第2回・体編)〜
前回のおさらい 第1回では、シャフトの「しなり戻り」の話を実測データで見ていきました。 結論はこうでした。シャフトの硬さを変えても、ヘッドスピードはほとんど変わりませんでした。 そして「しなりが戻る勢いでボールを弾き飛ばす」という説明にも、測定の裏づけは見つかりませんでした。シャフトはたしかにしなりますが、そのしなりが飛距離を生んでいる、という筋道は確かめられなかったのです。 👉 第1回・飛距離編はこちら そうなると、当然の疑問が残ります。 では、シャフトはいったい何を変えているのでしょうか。 今回はそこを、見つかった研究だけを使って正直に見ていきます。先に結論を書いておきます。シャフトが変えていたのは「飛距離」ではなく、「当たり方(フェースの向き)」と「体への負担」でした。 この記事のポイント ✅ シャフトのねじれやすさを変えると、インパクトでフェースの向きが変わり、ボールの落ちる場所が右にずれました(40名の研究) ✅ 72グラムのカーボン と 101グラムのスチール を比べると、前腕の筋肉の働き方が違いました。ただし飛距離は同じでした ✅ 打ち手は無意識に力の入れ方を変えて、体のほうがシャフトに合わせていました。合わせる手がかりは、関節や筋肉から届く感覚です 先に、統計の言葉をひとつだけ この記事には「有意(ゆうい)」という言葉と、p=0.028 のような数字が出てきます。ここで一度だけ説明しておきます。 「有意」とは、「たまたまでは説明しにくい、はっきりした違いがあった」という意味です。 p のうしろの数字が小さいほど、偶然では説明しにくくなります。0.05より小さければ「有意」とみなす のが慣習です。 ただし、これは「違いが大きい」という意味ではありません。「違いが偶然ではなさそうだ」というだけ です。ここを混同すると、研究の読み方をまちがえます。 ① ねじれやすさは「方向」に効いていた まず取り上げたいのは、シャフトのトルク(=シャフトのねじれやすさのこと。ねじれやすいほど数字が大きくなります)の研究です。 40名のゴルファーを対象にした研究(MacKenzie ら、2018年)で、ねじれやすいシャフト と ねじれにくいシャフト を打ち比べてもらいました。すると、ねじれやすいシャフトのほうで、次の3つが起きていました。 インパクトでのロフト(フェースの上向き加減)が増えた(p=0.028) インパクトでフェースがはっきり開いた(p<0.001) ボールの落下地点が、有意に右にずれた(p=0.002) ここで大事なのは、この3つはどれも飛距離の話ではない ということです。変わったのは「どこへ飛ぶか」でした。 さらに、この研究では40名のうち25名は、一人ひとりで見ても、シャフトのねじれやしなりによるフェースの開きが、ねじれやすいシャフトのほうで有意に大きくなっていました。平均だけでなく、一人ひとりでも違いが確認できたということです。 なお、シャフトがどれだけねじれたかは直接測っておらず、ほかの測定値から「ねじれによるものだろう」と研究チームが推定しています。 あなた 右に出るのはスイングのせいだと思って、ずっと直そうとしていました。 Torapon そこはご自身を責めなくていいと思います。この研究が言っているのは、シャフトのねじれやすさが変わるだけで、フェースの向きは変わりうる ということです。もちろんスイングの影響もありますが、道具の側にも理由がありうる 。まずはその可能性を知っておいてください。 ただし正直に書いておくと、これは1本の研究です。 他の研究で同じ結果が繰り返し出ているところまでは確認できませんでした。「そういう報告がある」という受け止め方が、いまのところ正確です。 ② シャフトを替えると、前腕の筋肉の働きが変わった ここからが、私がいちばん書きたかったところです。 2026年に発表された研究(Grieß D ら、BMC Musculoskeletal Disorders)を見ていきます。参加したのは40名、平均51歳、平均ハンディキャップ16 のゴルファーです。 比べたのは、この2本でした。 重さ ねじれやすさ(トルク) カーボンシャフト 72グラム 2.1 スチールシャフト 101グラム 1.8 そして測ったのが筋電図(きんでんず=筋肉が働くときに出るごく弱い電気を、皮膚の上から拾って「どれくらい働いたか」を見る方法のこと)です。 ...