前回のおさらい

第1回では、シャフトの「しなり戻り」の話を実測データで見ていきました。

結論はこうでした。シャフトの硬さを変えても、ヘッドスピードはほとんど変わりませんでした。 そして「しなりが戻る勢いでボールを弾き飛ばす」という説明にも、測定の裏づけは見つかりませんでした。シャフトはたしかにしなりますが、そのしなりが飛距離を生んでいる、という筋道は確かめられなかったのです。

👉 第1回・飛距離編はこちら

そうなると、当然の疑問が残ります。

では、シャフトはいったい何を変えているのでしょうか。

今回はそこを、見つかった研究だけを使って正直に見ていきます。先に結論を書いておきます。シャフトが変えていたのは「飛距離」ではなく、「当たり方(フェースの向き)」と「体への負担」でした。

この記事のポイント

✅ シャフトのねじれやすさを変えると、インパクトでフェースの向きが変わり、ボールの落ちる場所が右にずれました(40名の研究)

72グラムのカーボン101グラムのスチール を比べると、前腕の筋肉の働き方が違いました。ただし飛距離は同じでした

✅ 打ち手は無意識に力の入れ方を変えて、体のほうがシャフトに合わせていました。合わせる手がかりは、関節や筋肉から届く感覚です


先に、統計の言葉をひとつだけ

この記事には「有意(ゆうい)」という言葉と、p=0.028 のような数字が出てきます。ここで一度だけ説明しておきます。

「有意」とは、「たまたまでは説明しにくい、はっきりした違いがあった」という意味です。 p のうしろの数字が小さいほど、偶然では説明しにくくなります。0.05より小さければ「有意」とみなす のが慣習です。

ただし、これは「違いが大きい」という意味ではありません。「違いが偶然ではなさそうだ」というだけ です。ここを混同すると、研究の読み方をまちがえます。


① ねじれやすさは「方向」に効いていた

アイアンのフェースがボールに当たり、芝と水しぶきが飛び散るインパクトの瞬間の写真

まず取り上げたいのは、シャフトのトルク(=シャフトのねじれやすさのこと。ねじれやすいほど数字が大きくなります)の研究です。

40名のゴルファーを対象にした研究(MacKenzie ら、2018年)で、ねじれやすいシャフトねじれにくいシャフト を打ち比べてもらいました。すると、ねじれやすいシャフトのほうで、次の3つが起きていました。

  • インパクトでのロフト(フェースの上向き加減)が増えた(p=0.028)
  • インパクトでフェースがはっきり開いた(p<0.001)
  • ボールの落下地点が、有意に右にずれた(p=0.002)

ここで大事なのは、この3つはどれも飛距離の話ではない ということです。変わったのは「どこへ飛ぶか」でした。

さらに、この研究では40名のうち25名は、一人ひとりで見ても、シャフトのねじれやしなりによるフェースの開きが、ねじれやすいシャフトのほうで有意に大きくなっていました。平均だけでなく、一人ひとりでも違いが確認できたということです。

なお、シャフトがどれだけねじれたかは直接測っておらず、ほかの測定値から「ねじれによるものだろう」と研究チームが推定しています。

あなた あなた

右に出るのはスイングのせいだと思って、ずっと直そうとしていました。

Torapon Torapon

そこはご自身を責めなくていいと思います。この研究が言っているのは、シャフトのねじれやすさが変わるだけで、フェースの向きは変わりうる ということです。もちろんスイングの影響もありますが、道具の側にも理由がありうる 。まずはその可能性を知っておいてください。

ただし正直に書いておくと、これは1本の研究です。 他の研究で同じ結果が繰り返し出ているところまでは確認できませんでした。「そういう報告がある」という受け止め方が、いまのところ正確です。


② シャフトを替えると、前腕の筋肉の働きが変わった

ここからが、私がいちばん書きたかったところです。

2026年に発表された研究(Grieß D ら、BMC Musculoskeletal Disorders)を見ていきます。参加したのは40名、平均51歳、平均ハンディキャップ16 のゴルファーです。

比べたのは、この2本でした。

重さ ねじれやすさ(トルク)
カーボンシャフト 72グラム 2.1
スチールシャフト 101グラム 1.8

そして測ったのが筋電図(きんでんず=筋肉が働くときに出るごく弱い電気を、皮膚の上から拾って「どれくらい働いたか」を見る方法のこと)です。

測った筋肉は4つ。左右の両腕 で測っています。

  • 短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)=手首を甲側へ反らせる筋肉
  • 尺側手根屈筋(しゃくそくしゅこんくっきん)=手首を手のひら側へ曲げる筋肉
  • 円回内筋(えんかいないきん)=前腕を内側にひねる筋肉
  • 上腕二頭筋=いわゆる力こぶの筋肉

72グラムのカーボンと101グラムのスチールを比べると、飛距離は同じまま、カーボンのほうで手首を曲げる筋肉と前腕をひねる筋肉の働きが低かったことをまとめた図

結果はこうでした。

フォロースルーの後半では、リード側の2つの筋肉が、カーボンのほうで有意に低くなっていました。 ここでいうリード側とは、右打ちなら左腕、左打ちなら右腕のことです。

  • 手首を手のひら側へ曲げる筋肉(尺側手根屈筋)… p=0.027
  • 前腕を内側にひねる筋肉(円回内筋)… p=0.009

さらに注目したいのが、次の点です。

ひじに痛みのない人でも、前腕を内側にひねる筋肉の働きは、スチールのほうが両腕とも高くなっていました(リード側 p=0.002、トレイル側 p=0.032)。痛みのある人だけの話ではなかった、ということです。

また、オーバーラップグリップ(=右打ちなら、右手の小指を、左手の人差し指と中指のすき間に重ねて握る握り方)で握る人では、トレイル側(=リード側の反対。右打ちなら右腕)の、手首を手のひら側へ曲げる筋肉が、スチールのほうで有意に高くなっていました(p=0.021)。

そして——飛距離(キャリー)は、どのグループでも同じでした。

ここは踏み外してはいけない、という限界

この研究、とても面白いのですが、著者自身がはっきり限界を書いています。 私も、そこは正直にお伝えしなければなりません。

限界その1。比べた2本は、素材だけが違うのではありません。 72グラムと101グラムで重さが違い、ねじれやすさも違います。ですから「カーボンだから軽かった」とは言えません。正確には「72グラムのカーボンと101グラムのスチールを比べたら、こうなった」としか言えないのです。

限界その2。これは筋電図の研究であって、けがの研究ではありません。 測ったのは「筋肉がどれくらい働いたか」であって、「そのあとゴルフ肘になったかどうか」ではありません。

あなた あなた

つまり、シャフトを替えればゴルフ肘が減る、ということですか。

Torapon Torapon

そこは、はっきり「言えません」とお答えします。この研究が示したのは、筋肉の働き具合という代理の指標だけ です。「筋肉の働きが下がる」ことと「痛みが減る」ことのあいだには、まだ橋がかかっていません。

私は理学療法士として、この違いにこだわりたいと思っています。研究で確かめられたこと(前腕の筋肉の働きが下がった)と、そうなってほしいと期待していること(ひじの痛みが減る)は、分けて考えたい と思っています。期待だけで道具を替えて、「カーボンにしたから大丈夫」と痛みをがまんしながら続けてしまうのが、いちばん避けたいことだからです。

なお、可動域と筋力の第3回 でもこの研究に触れましたが、そこでは「カーボンのほうが前腕の負担が下がる」と書きました。今回あらためて原著を読み直すと、72グラムのカーボンと101グラムのスチールを比べた研究で、素材だけでなく重さも違っていた ことが分かりました。ここで補足させてください。


グリップの形を変えると、前腕の働き方が変わった

ゴルフクラブのグリップを両手で握る手元を、正面から近くで写した写真

シャフトの話をしていると、必ず一緒に出てくるのがグリップです。関連する研究を2つ紹介します。ただし、2つの結果は同じ向きではありませんでした。

ひとつめ。 手の形に合わせて凹凸をつけたグリップの研究(2024年、30名)では、ふつうのグリップと比べて、スイングのいくつかの場面で、前腕の筋活動が下がって いました。調べたのは、先ほどのシャフトの研究と同じドイツの研究グループです。

ふたつめ。 グリップの太さを3種類に変えて筋電図を測った研究(2016年、男性15名、7番アイアン)では、太さを変えても、前腕の筋活動に統計的な違いは出ませんでした。一方で、細めのグリップでは、ヘッドスピードが有意に速くなって いました(p=0.044)。

つまり、グリップの形を工夫すると前腕の筋肉の働きが下がりうる一方で、太さを変えるだけでは、前腕の筋肉の働きは変わらなかった ということです。どちらも30名と15名の小さな研究なので、「グリップを替えれば必ず楽になる」とまでは言えません。

それでも、グリップ交換は、クラブの買い替えよりずっと軽い一歩 です。試してみる価値はあると思います。


③「軽くすると初速が落ちる」は本当か

練習場の打席の横に3本のアイアンが立てかけられ、弾道を測る計測器が置かれている写真

日本のゴルフ雑誌や練習場でよく聞く説に、「シャフトを軽くすると、ボールの初速が落ちる」というものがあります。

私はこの説の裏づけを探しました。査読を受けた研究のなかには、見つけられませんでした。 そして、見つかった実験ではむしろ逆の結果 が出ていました。

その研究(Yang CC ら、2024年、Frontiers in Bioengineering and Biotechnology)では、20名に7番アイアン で、77グラム/98グラム/114グラム の3種類のシャフトを打ち比べてもらいました。参加者はハンディキャップ4.3前後の10名ハンディキャップ29.1前後の10名 です。

結果は、軽いほうが上回りました。

  • ヘッドスピード … 軽いほうが速い(p=0.022)
  • ボール初速 … 軽いほうが速い(p=0.004)
  • キャリー … 軽いほうが長い(p=0.008)

キャリーの実数を並べると、こうです。

77グラム 98グラム 114グラム
ハンディ4.3前後の10名 194.1ヤード 189.4ヤード 188.4ヤード
ハンディ29.1前後の10名 156.2ヤード 157.7ヤード 151.9ヤード

ここ、よく見てください。

上手な方のグループでは、軽いほうがはっきり長く飛んでいます。 ところが上級でないグループでは、77グラムと98グラムはほとんど変わりません。 むしろ98グラムのほうがわずかに長いくらいです。はっきり落ちたのは114グラムのときだけでした。

また、打ち出し角はシャフトの重さの影響を受けませんでした(p=0.363)。スイング中の体の動きや重心の移動も、重さでは変わりませんでした。

あなた あなた

軽くしても飛ばなくならない、ということですか。ずっと逆だと聞いてきました。

Torapon Torapon

少なくともこの20人の実験では、逆でした。 ただし、これで決まりというわけでもありません。

正直に限界を書きます。20人と小規模 ですし、室内での測定 です。参加者は自分のいつものクラブではないもの を打っています。シャフトの硬さとスイングウェイト(振ったときの重さの感じ方)を切り離して評価していません し、2つのグループは年齢も違います

ですから私が言えるのは、「軽くすると初速が落ちる」という説は査読された裏づけが見つからなかった 、そしてこの実験ではむしろ逆だった 、というところまでです。


④ 体のほうが、勝手にシャフトに合わせている

夕暮れの練習場で、目を閉じてゆっくりクラブを振る男性の写真

ここが、この記事の山場です。理学療法士として、いちばんお伝えしたい研究があります。

Osis と Stefanyshyn の研究(2012年、Human Movement Science、24名)です。

第1回で見たとおり、シャフトの硬さを変えても、平均のヘッドスピードはほとんど変わりませんでした。この2人は、その理由を「ゴルファーが、シャフトの硬さに合わせて、振り方を無意識に調整しているからではないか」と考えました。

そこで、手首やひじのまわりに振動 を加えて体の感覚をわざと乱し、そのうえで硬さの違う3本のクラブを打ってもらいました。

すると、硬いシャフトのときに、クラブを振り出す瞬間の手元の動きが、はっきり遅くなりました。

なぜ振動を加えると変わるのか。ここが面白いところです。

関節や筋肉には、自分の体がいまどういう状態にあるかを感じ取るセンサー が埋まっています。この感覚を固有感覚(こゆうかんかく=目で見なくても、自分の手や足の位置・動き・力の入り具合が分かる感覚のこと)といいます。目を閉じていても自分の手がどこにあるか分かるのは、この感覚のおかげです。

振動は、このセンサーを一時的にごまかします。 つまりこの実験は、センサーを狂わせたら、シャフトの違いが動きに出てしまった ということを見せているわけです。

研究チームの考えをかみくだくと、こうなります。

ふだん、私たちはシャフトが変わっても同じように振れています。それは、シャフトに体を合わせているからではありません。体が、無意識に力の入れ方を変えて、勝手にシャフトに合わせてくれているからです。

そしてその調整は、関節や筋肉から届く感覚に頼っている 。感覚が狂うと、調整が効かなくなる。だから振動で感覚を乱したときに、差が出てきたのです。

あなた あなた

体が勝手に合わせてくれているなら、どのシャフトでもいいということになりませんか。

Torapon Torapon

いい質問です。私はむしろ逆だと思っています。「合わせる」という仕事を、体が引き受けてくれている ということですから。

合わない道具ほど、体の調整の仕事は増えます。若いうちは、その負担に気づきません。でも感覚の正確さも、力を素早く立ち上げる能力も、年齢とともに落ちていきます。そのときに、それまで無自覚にこなしていた調整が、だんだん重荷になってくる。

だから道具を見直す価値はあります。ただし、その価値は「飛ぶかどうか」ではなく「余計な調整をさせないかどうか」で測るべき だと思うんです。


⑤ では、飛距離を決めているのは何だったのか

道具の話をひととおり見たところで、体の話に戻ります。

20の研究をまとめたメタ解析(=同じテーマの複数の研究を集めて、まとめて数字を出し直す方法のこと)があります(Brennan ら、2024年、Sports Medicine)。ヘッドスピードと、体のいろいろな能力との関係の強さ を並べたものです。この表は、第1回や速筋の記事 でご紹介したものと同じです。数字(r)は1に近いほど関係が強く、0に近いほど関係がないことを表します。

ヘッドスピードとの関係は、ジャンプの力積が相関0.68でいちばん強く、柔軟性はマイナス0.04、バランスはマイナス0.06で関係がなかったことを示す横棒グラフ

体の能力 ヘッドスピードとの関係
ジャンプの力積(床を蹴って力を立ち上げる能力) r = 0.68 ← いちばん強い
上半身の爆発力(ボール投げなど) r = 0.58
ジャンプの最大パワー r = 0.58
ジャンプの高さ r = 0.49
上半身の筋力(握力・ベンチプレスなど) r = 0.45
下半身の筋力(スクワットなど) r = 0.44
柔軟性 r = −0.04(関係なし)
バランス r = −0.06(関係なし)

いちばん上に来たのは、床を蹴って力を立ち上げる能力 でした。そして柔軟性とバランスには、統計的に意味のある結びつきが見つかりませんでした。

これは、当ブログの可動域と筋力シリーズ で書いてきたことと、そのまま重なります。柔らかさは、飛距離のためではありません。腰やひじを守るためのものです。

そして今回のシャフトの話とつなげると、こうなります。

加齢を理由に道具を軽くする前に、確かめるべきなのは柔軟性ではなく、床を蹴って素早く力を立ち上げる能力のほうです。


ゴルフのけがは、どこに起きているのか

もうひとつ、背景として知っておいていただきたいデータがあります。

20の研究・9,221名を集めたメタ解析(Williamson ら、2024年、British Journal of Sports Medicine)です。

  • 一生のうちにけがをした人の割合 … アマチュア56.6%プロ73.5%
  • アマチュアでいちばん多い部位は、ひじ(20.5%)
  • プロでいちばん多いのは手・手首(51.5%)、次が(40.9%)
  • けがの頻度は、年齢とも性別とも結びついていませんでした

最後の1行が、私には印象的でした。「歳だからけがをする」わけでも、「男性だから/女性だからけがをする」わけでもなかった のです。

そしてアマチュアでいちばん多いのがひじ 。前半で見た筋電図の研究が、まさに前腕とひじまわりを測っていたことを思い出してください。シャフトと体の話は、アマチュアがいちばん痛める場所と重なっています。

👉 ゴルフでひじが痛い人へ(ゴルフ肘のセルフケア) 👉 ゴルフで手首が痛い人へ(手首のセルフケア)


正直に書いておきます。「研究が無い」こと

ここまで研究を並べてきましたが、探しても見つからなかったこと も、同じくらい大事だと思っています。省略せずに書きます。

① シャフトの重さ・硬さ・振動の伝わり方と、腰痛・ひじの痛み・手首の痛みの起こりやすさを結びつけた研究は、私が探した範囲では1本も見つかりませんでした。

つまり「このシャフトにすれば痛くならない」と言える根拠は、いまのところ存在しません。

② 握力や前腕の筋力から、その人に合うシャフトの重さを決められるかどうかを検証した研究も、見つかりませんでした。

③ 高齢の方向け・女性向けの軽量シャフトの効果を確かめた研究も、見つかりませんでした。 「女性は軽く柔らかいものを」というのは、業界の慣習です。

④ 「シニアは軽く柔らかく」「切り返しが速い人は手元が硬いシャフトを」といった言い回しも、フィッターの方の経験則であって、研究の裏づけは見つかりませんでした。

経験則が間違っている、と言いたいのではありません。現場の経験は貴重です。 ただ、経験則を「科学的に証明されたこと」として受け取ってしまうと、判断をまちがえます。 ここは分けて考えておいてください。

あなた あなた

研究が無いと言われると、何を信じたらいいのか分からなくなります。

Torapon Torapon

分からないところは分からない、と言えるのが理学療法士のいいところだと思っています。そのうえで、分かっている範囲でできること は、ちゃんとあります。次にその手順をまとめます。


体から当たりをつける手順

先にお断りしておきます。「この数字ならこのシャフト」と表で一発で決める手順は、科学的には書けません。 そう書いてある表はたくさんありますが、根拠のある形にはなっていないからです。

そのかわり、確かめられていることの順番 に沿って書きます。

手順1|まず、ヘッドスピードを実測する

推測しないでください。測ってください。

コツは3つです。同じ日に測る。同じクラブで測る。10球以上打つ。 そして1球の最高値ではなく、平均を見る ことです。調子のいい1球を自分の実力だと思ってしまうと、そのあとの判断が全部ずれます。

測れる場所は、大手量販店の試打コーナー、練習場に設置してある弾道計測器、1万円前後の簡易計測器 など、いまはいろいろあります。

手順2|早見表は「出発点」としてだけ使う

ヘッドスピードごとの推奨フレックス表は、あくまで出発点です。

理由があります。フレックスの表記には、メーカーをまたいだ統一規格がありません。 あるメーカーのRと、別のメーカーのRが同じ硬さとはかぎらないのです。ですから表は「このあたりから試そう」という目印であって、答えではありません。

手順3|必ず、打ち比べる

ここが科学的にいちばん大事なところです。

集団の平均で見ると、シャフトの硬さを変えても、ヘッドスピードはほとんど変わりません。 第1回で見たとおりです。ところが一人ひとりで見ると、違いが出る人がいます。

  • 第1回で紹介した硬さの研究では、同じ人が2本で打った球の平均どうしを比べると、33名中17名(半分)、別の研究では40名中27名(7割近く)で、ヘッドスピードに違いが出ていました
  • ねじれやすさの研究では、40名中25名(6割ほど)で、フェースの向きに違いが出ていました

つまり、半分から7割近くの人には、シャフトによって違いが出る ということです。

これこそが、フィッティングという営みの科学的な存在理由だと私は思っています。 平均では差が出ないから意味がない、のではありません。平均では差が出ないからこそ、一人ひとり打ち比べるしかない のです。

手順4|見る指標を「飛距離」から「ばらつき」に変える

打ち比べるとき、飛距離だけを見ないでください。

ここまで見てきたとおり、シャフトが変えていたのは飛距離ではなく、フェースの向きと落下地点でした。 ですから見るべきは、10球の散らばり具合 です。

いちばん飛んだ1球ではなく、いちばん曲がった球がどれくらい曲がるか 。そちらのほうが、スコアには効きます。

手順5|痛みや違和感がある方は、硬さより先に「手元」を

ひじや手首に不安のある方は、硬さ(フレックス)よりも先に、手元の重さ・素材・グリップの形を検討してください。

前半で見たとおり、前腕の筋肉の働き方に差が出ていたのは、シャフトの重さと素材、そしてグリップの形の話 でした。硬さの話ではありません。

そして、いちばん費用がかからないのがグリップ です。すり減ったグリップは「滑らないように強く握る」ことにつながります。まずは1本、交換してみるところからで十分だと思います。

手順6|「軽く・柔らかく」に飛びつく前に、落ちたものを確かめる

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

飛ばなくなったとき、多くの方が最初に道具を疑います。でも先ほどの表を思い出してください。ヘッドスピードといちばん強く結びついていたのは、床を蹴って力を立ち上げる能力 でした。柔軟性ではありません。

ですから、道具を軽くする前に、自分の体で何が落ちたのか を確かめてほしいのです。理学療法士として、自宅でできる確かめ方を3つ挙げます。

明るい部屋で、壁に片手を添えて片脚立ちをする男性の写真

その1|片脚立ちを、時間ではなく「立ち上がりの速さ」で見る

壁のそばで、片脚立ちをしてみてください。見るのは「何秒立てたか」ではありません。足を上げた最初の1〜2秒で、ピタッと止まれるかどうか です。最初にグラッと大きく揺れてから落ち着く方は、とっさに力を立ち上げる働きが鈍っている サインかもしれません。左右で比べてみると、違いに気づきやすくなります。

その2|椅子から「素早く」立ち上がれるか

椅子に浅く腰かけ、5回続けて、できるだけ速く立ち座り をしてみてください。何秒かかるかを測ります。大事なのは回数をこなすことではなく、1回目と5回目で速さが落ちていないか です。後半で明らかにもたつく方は、力の立ち上がりが持続していません。

その3|その場で、かかとを速く弾く

壁に手をついて、かかとを弾くように速く持ち上げて、ゆっくり下ろす 。これを10回。速く持ち上げられなくなったところが、いまの限界です。地面を蹴る力に直結する動きなので、ゴルフとの相性がいい確かめ方です。

いずれも、痛みが出たらすぐ中止 してください。持病のある方、関節の手術を受けたことのある方は、始める前に主治医にご相談ください。

くわしい鍛え方は、速筋の記事 にまとめてあります。

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太ももに巻いて横歩きしたり、お尻の運動に負荷を足したりできるゴム輪。床を蹴る力を育てる運動は、これ1つで幅が広がります。強度が5段階そろったセットなら、いちばん軽いものから始めて少しずつ上げていけるので、シニアの方にも使いやすいはずです。

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ゴムバンドで物足りなくなったら、次はこちら。プレートを付け替えて重さを変えられるので、軽い重さを速く動かす練習にも、しっかり負荷をかける練習にも使えます。いちばん軽い設定から始めて、フォームが安定してから重くしていってください。


こんなときは、医療機関へ

道具を見直す前に、受診をおすすめしたい状態があります。

  • ひじや手首の痛みが2週間以上続いている
  • 手や指にしびれ、または力の入りにくさがある
  • 夜、痛みで目が覚める
  • 手のひらの付け根の痛みが、なかなか引かない

道具の工夫は、痛みのない範囲でこそ意味を持ちます。 痛みを我慢したまま道具を替えても、根っこは残ったままです。


2部作の締めくくり

2回にわたって、シャフトを見てきました。まとめます。

第1回で分かったこと。 シャフトの硬さを変えても、ヘッドスピードは変わりませんでした。しなり戻りが飛距離を生むという説明にも、実測の裏づけは見つかりませんでした。

第2回で分かったこと。 そのかわりシャフトは、フェースの向きとボールの落ちる場所 を変えていました。そして前腕の筋肉の働き方 も変えていました。ただし、それが痛みやけがを減らすかどうかまでは、確かめられていません。

だから私は、こう言い換えたいと思います。

シャフトは「飛ばす道具」ではなく、「当たり方と、体への負担」を決める道具です。

そしてもうひとつ。打ち手は、シャフトに合わせて無意識に力の入れ方を変えています。 体のほうが、道具に合わせてくれている。その調整は、関節や筋肉から届く感覚と、素早く力を立ち上げる能力に支えられています。

道具より、体のほうが伸びしろは大きい。 20の研究をまとめた解析が、いちばん上に「床を蹴って力を立ち上げる能力」を置いたのは、そういうことだと思っています。

シャフトを軽くするかどうか迷ったら、その前に一度、片脚で立ってみてください。椅子から5回、速く立ってみてください。そこで見つかるものは、シャフトを1本替えるより、たぶん長く効きます。


参考にした情報

  • MacKenzie SJ, Henrikson EM, Macdonald HL, Hillier TW.「The influence of golf shaft torque on clubhead kinematics and ball flight」Journal of Sports Sciences 2018年(40名)
  • Grieß D ほか「Graphite shafts reduce forearm muscle activity in golf - a prospective case series of 40 right-handed amateur and professional golfers」BMC Musculoskeletal Disorders 2026年(40名・平均51歳・平均ハンディキャップ16)
  • Yang CC ほか「The effects of different iron shaft weights on golf swing performance」Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 2024年(20名)
  • Brennan A ほか「Associations Between Physical Characteristics and Golf Clubhead Speed: A Systematic Review with Meta-Analysis」Sports Medicine 2024年(20研究)
  • Williamson TR, Kay RS, Robinson PG, ほか「Epidemiology of musculoskeletal injury in professional and amateur golfers: a systematic review and meta-analysis」British Journal of Sports Medicine 2024年(20研究・9,221名)
  • Osis ST, Stefanyshyn DJ.「Golf players exhibit changes to grip speed parameters during club release in response to changes in club stiffness」Human Movement Science 2012年(24名)
  • Sorbie GG ほか「An electromyographic study of the effect of hand grip sizes on forearm muscle activity and golf performance」Research in Sports Medicine 2016年(15名)/Bochnia JM ほか「An Ergonomic Golf Grip Leads to Lower Forearm Muscle Activity」BMC Musculoskeletal Disorders 2024年(30名)

※この記事は、公表されている研究をもとに、ゴルファー向けにやさしく言い換えたものです。特定の製品をおすすめするものではありません。痛みや不調があるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。