ゴルフバッグに並んだクラブと、そばに置かれたルールブックのイラスト

その古いウェッジ、まだ使えます 〜道具のルール、いつの話で止まっていますか〜

コンペの朝、スタート前にバッグを開けたら、クラブが15本入っていました。 さて、何打の罰でしょうか。 ……この質問、ゴルフ仲間に聞くと答えがきれいに割れます。「1本オーバーだから2打」「いや4打」「そもそも失格じゃないの?」。正解は「違反したホールごとに2打、ただし1ラウンドで最大4打まで」 です。18ホールずっと15本のままでも、4打で止まります。 道具のルールというのは、こういう「知っているつもり」がとても多い分野です。しかも厄介なことに、ルールそのものが変わっているのに、頭の中の情報だけが古いままということが起きます。 今回、R&A(世界のゴルフ規則を決めている団体)とUSGA(全米ゴルフ協会)の公式文書を読み直してみたところ、世間に広く出回っている情報のうち2つが、すでに事実と違っていました。 この記事のポイント ✅ 「2024年からアマチュアも古いウェッジは使えない」は誤りです。2024年1月25日にR&A自身が否定しています。 あなたの古いウェッジは、今も普通に使えます ✅ 「2028年からボールが飛ばなくなる」も、もう古い情報です。2026年6月に撤回され、2030年1月まで何も変わらないことが決まりました ✅ 長尺パターは禁止されていません。 禁止されたのはクラブではなく、打ち方のほうです あなた えっ、古いウェッジが使えなくなるって聞いていたんですが……。 Torapon 私もそう思っていました。ところが調べてみたら、R&Aが公式に「そうしない」と結論を出していたんです。しかも2年以上前に。 こういうことが起きるので、道具のルールは出どころを確かめる価値がある分野なんですね。この記事では、規則の番号と決定された日付を添えて書いていきます。 クラブは14本まで。でも罰の数え方を間違えている人が多い まず、いちばん基本のところから。 クラブは14本まで(規則4.1b)。数えるのは自分が運んでいる分だけではなく、キャディさんが持っている分も含めてです。14本より少なくスタートするのは自由で、ラウンド中に14本まで足すこともできます。 問題は罰のほうです。 罰は「余分な1本につき」ではなく「違反が起きた各ホールにつき」。 ストロークプレーなら1ホールにつき2打、最大4打まで(最初の2ホールで2打ずつ)。 つまり15本でも16本でも、3番ホールで気づいても、上限は4打です。「1本につき2打だから、3本オーバーで6打」ではありません。 スタート前に気づけば、罰なしで済みます コンペでいちばんありがちな事故が、素振り用に1本余計に入れたまま抜き忘れるというものです。 これ、実は救いがあります。スタート前に気づいた場合は、罰なしで処理できます(規則4.1c(2))。同伴者かマーカーに「この1本は使いません」と宣言して、バッグの中でそのクラブを逆さまに差しておく。これで14本の制限には数えられません。 ラウンドが始まってから気づいた場合も、次の1打を打つ前に同じように除外を宣言します。ここで宣言せずにそのまま回ると、罰が増え続けてしまいます。なお、除外したクラブでうっかり打ってしまうと失格です。 「壊れた」と「なくした」で、扱いがまったく違います ここも間違えている人が多いところです。表にします。 状況 どうなるか ラウンド中に壊れた(規則4.1a(2)) ⭕️ 修理しても、別のクラブに取り替えてもよい ラウンド中になくした(規則4.1b(3)) ❌ 取り替えられない 他の人からクラブを借りる(規則4.1b(4)) ❌ 借りられない 他の人からボールをもらう(規則4.2a(1)) ⭕️ もらってよい 「壊れたら、そのラウンドはもう使えない」と覚えている方が多いのですが、今は取り替えてよいことになっています。ただし乱暴に扱って壊した場合は別です。ミスに腹を立てて地面に叩きつけた、というのは対象外になります。 クラブは借りられないのに、ボールはもらってよい。 この対比は、覚えておくと得をします。ボールを切らしたときは、遠慮なく同伴者に声をかけてください。 ドライバーの「上限」には、実は許容差があります ドライバーのヘッドは460ccまで。これはご存じの方も多いと思います。 ただ、規則をよく読むと続きがあります。 ヘッド体積は460ccを超えてはならない。プラス10ccの許容差(用具規則2.4b) 測定にはどうしてもばらつきが出るので、実測470ccまでは不適合とされません。 フェースの反発の強さにも上限があります。こちらは「反発係数」という言葉で語られることが多いのですが、現在の公式なものさしは「CT値」で、上限は239マイクロ秒(プラス18マイクロ秒の許容差) です。よく見かける「0.830」という数字は、現行の公式文書の中には見当たりませんでした。 この反発の上限があるおかげで、道具でボールスピードを上げられる範囲には天井があります。この話は別の記事で詳しく書いています。 👉 「速く振る」より先にやること(ミート率を上げる科学・第1回) 高反発ドライバーは「持つ」と「打つ」で分かれます いわゆる高反発ドライバー、いわゆる「ルール不適合」のクラブについて、規則は3段構えになっています。 バッグに入れているだけなら、罰はありません ただし、14本の中には数えられます そのクラブで1打でも打つと失格です(規則4.1a) さらに知られていないのが、ハンディキャップへの影響です。不適合クラブで打ったラウンドのスコアは、ハンディキャップの計算に使えません(ハンディキャップ規則2.1b)。「競技に出ないから関係ない」とも言い切れないわけです。 あなたの古いウェッジは、今も使えます ここからが、今回いちばんお伝えしたい話です。 2010年に、溝(グルーヴ)のルールが厳しくなりました。溝の容積を減らし、溝の角の丸みを増やす。ラフからスピンが効きにくくなるようにする、という趣旨の変更です。 このとき「一般アマチュアには猶予期間があり、2024年1月から全員に適用される」と説明されました。ネット上には今もこの説明がたくさん残っています。 ...

September 9, 2026 · 1 分
夕方の練習場で、ドライバーのシャフトを大きくしならせながら振り下ろすゴルファー

しなり戻りは、飛距離を生んでいなかった 〜シャフト選びの科学(第1回・飛距離編)〜

「シャフトがしなって、戻る。あのムチのような動きが、ヘッドを加速させて飛距離を生む」 ゴルフを始めてから、何度この説明を聞いたか分かりません。私も、そう信じていました。柔らかいシャフトはよくしなるから走る、硬いシャフトはしならないから走らない。だからヘッドスピードに合わせてフレックスを選ぶのだ、と。 ところが、この「しなり戻りが飛距離を生む」という話を実際に測った研究を読んでいくと、思っていたのとは違う景色 が見えてきます。 しなり戻りの速さと、ヘッドスピードは、ほとんど関係がありませんでした。 今回から2回にわたって、シャフトの話を研究データから書きます。第1回は飛距離編 です。 この記事のポイント ✅ 重さも振り心地もそろえたうえで、柔らかいシャフトと硬いシャフトを打ち比べた研究では、しなり戻りの速さには明確な違いが出たのに、ヘッドスピードには違いが出ませんでした ✅ ヘッドスピードと強く結びついていたのは、シャフトの性質ではなく 打ち手が手元を回すスピード のほうでした ✅ ただし、33人それぞれが2本で打った球の平均を比べると、17人は、どちらか一方のシャフトのほうがはっきり速くなっていました。合うシャフトは人によって違う、ということです。フィッティングの意味は、ここにあります この記事に出てくる統計の言葉 (説明はここだけにまとめます) ・相関 = 2つの数字が、どれくらい一緒に動くかを −1 から +1 までの数字で表したもの。0に近いほど「おたがいに関係がない」、+1に近いほど「片方が大きいと、もう片方も大きい」という関係が強くなります ・統計的に有意でない = 測った数字にいくらか開きはあっても、その程度の開きは偶然でも起こりうる、という意味です。「差がゼロだと証明された」ではなく、差があるとは言えなかった ということですね ・盲検 (もうけん)= どちらのシャフトを使っているかを、打つ人に知らせずに試すやり方です。打つ人にも計測する人にも知らせない場合は、二重盲検 と呼びます。「今日は硬いほうだ」という思い込みが結果に混ざるのを防ぎます どちらのシャフトか、打つ本人にも分からないようにして打ってもらった 中心になるのは、カナダのマッケンジーとブーシェが2017年に Journal of Sports Sciences に発表した研究です。 参加したのは右打ちの男性ゴルファー33名 で、ハンディキャップの平均は12.1でした。上級者ばかりでもなく、初心者ばかりでもない、いわゆる中級者の集まりです。 この研究のすぐれているところは、シャフトの硬さ以外の条件を、徹底してそろえた ところにあります。 用意したのは、Rフレックスとよばれる柔らかいシャフト と、Xフレックスとよばれる硬いシャフト の2本。この2本は、 重さや慣性モーメント(=回しにくさの度合いのこと)など、振ったときの感じにかかわる性質を、ほぼ同じにしてある つまり、違うのは、しなりやすさだけ という状態です。そのうえで、1人が各シャフトで14球ずつ打ち、途中でシャフトが替わったことは、打つ人に知らせませんでした。終わったあとで、参加者は全員、途中で替わったことに気づかなかった と答えています。 ここまでやるのには理由があります。ふつうにシャフトを打ち比べると、たいてい重さも振り心地も違いますし、何より、「柔らかいほうを持っている」と分かった瞬間に、人は振り方を変えてしまう からです。それを全部止めたうえで、シャフトそのものの効果だけを取り出したわけですね。 あなた そこまでする必要があるんですか。打てば分かりそうなものですが……。 Torapon それが、分からないんです。私たちは「柔らかいと聞かされた」だけで、実際に振り方を変えてしまいます。試打で「このシャフト、走りますね」と感じたとき、走っているのがシャフトなのか自分なのかを、感覚では区別できません。だから、知らせずに打ってもらうんですね。 しなり戻りは、たしかに速かった。でもヘッドスピードは変わらなかった 結果を、順番に見ていきます。 まず、しなり戻りの速さ です。研究ではキック速度 と呼ばれています。シャフトが後ろにたわんでから前に戻ってくる、その戻りの速さのことです。 しなり戻りの速さ R(柔らかいほう) 1.7 m/s X(硬いほう) 1.2 m/s 柔らかいRのほうが、硬いXより0.5 m/s 速く戻っていました。これは統計的にもはっきりした違いです。つまり「柔らかいシャフトのほうがよく走る」こと自体は、事実でした。 ...

September 15, 2026 · 2 分