木の根元にボールが止まっています。打てなくはありません。腰を大きくねじって、根っこを避けて振り抜けば。
このとき私たちが天秤にかけているのは、たいてい「1打」です。1打をもったいないと思うから、無理な体勢で振る。
でも、もうひとつ乗せるべきものがあります。腰と腕です。
ルール3部作の最後は、ここを書きます。前2回とは少し角度を変えて、規則の中にある「降りるための出口」の話です。
この記事のポイント
✅ 規則には「体を守るために救済を受けてよい」とは、どこにも書かれていません。 そこは正直に書きます
✅ その代わり、アンプレヤブルは理由を聞かれません。 決められるのは自分ひとりで、1罰打です
✅ 邪魔な枝を折れば2罰打。降りれば1罰打。 安いのは、降りるほうです
まず、正直なところから
調べていて、はっきりしたことがあります。
規則は「体を守れ」とは言っていません。
けがに触れている条文はごくわずかで、危険な動物(ヘビやハチなど)から離れる救済(規則16.2)くらいです。しかも、この規則はトゲのある植物のような他の危ないものは、はっきりと対象外にしています。
それどころか、規則はこうも書いています。
プレーヤーには通常のスタンスをとったり、通常のスイングを行う権利はない。その特定の状況に対応するために最も控えめな行動をとらなければならない(規則8.1b(6))
「普通に立って普通に振る権利」は、保証されていないのです。
最も控えめな行動というのは、かみくだくと「まわりをいじる量を、いちばん少なくしろ」ということです。
球のそばに立とうとすれば、草を踏むくらいのことは避けられません。それは認められています。 ですが、立ちやすくするために必要以上に踏み固めたり、枝をよけたりしてはいけない。そこにある物をなるべくそのままにして、自分のほうが窮屈な姿勢に合わせなさい、という考え方です。
つまり規則は、打ちにくいなら、打ちやすくするのではなく、打ちにくいまま打つか、やめるかを選べと言っているわけです。
でも、話はここで終わりません。 規則は別のものを保証しています。
いつでも、自分の判断だけで降りてよい。
体を守れとは言わない。けれど、降りる自由は完全に保証している。この2つを混ぜずに知っておくことが、コースでいちばん役に立ちます。
罰なしで降りられるところ
まず、1打も損せずに動かせる場面を確認しておきます。
カート道・修理地・水たまり・動物の穴。この4つは「異常なコース状態」と呼ばれ、罰なしで救済を受けられます(規則16.1)。球が上に乗っていなくても、足がかかるだけで対象です(ご存じの方も多いところですね)。
もうひとつ、知られていないのがこちらです。
地面にくい込んだ球は、罰なしで救済を受けられます(規則16.3)
雨上がりのフェアウェイで、自分の落下の跡にめり込んだ球。あれを無理に掘り起こそうとするのは、手首と肘にいちばん悪い打ち方です。掘る必要はありません。
ただし条件があります。
| 罰なしの救済 | |
|---|---|
| フェアウェイやラフ(一般エリア) | ⭕️ あり |
| バンカーの目玉 | ❌ なし |
| 刈っていない場所の砂 | ❌ なし |
バンカーは「一般エリア」に入りません。 ですから、砂に埋まった目玉に、罰なしの出口はありません。ここは後で出てきます。
👉 手首を傷めやすい打ち方については、こちらに詳しく書いています ゴルフで手首が痛い人へ(手首のセルフケアと予防)
そして、木の根元・斜面・立ち木には、罰なしの救済はありません。 どれも「異常なコース状態」に当たらないからです。つまり、いちばん体に悪い場面ほど、無料の出口がない。 ここが今日の本題につながります。
1罰打で降りる。理由は聞かれません

木の根元で、腰をねじらないと振れない。振り抜けば、間違いなく根っこを打つ。 斜面がきつすぎて、そもそもアドレスが取れない。そういうときの出口が、アンプレヤブルです。
規則19の見出しが、そのまま答えになっています。
プレーヤーは、ペナルティーエリア以外のどこででも、アンプレヤブルの球の救済を受けることを決めることができる(規則19.1)
そして本文は、自分が「決定できる唯一の人」だと書いています。同伴者の同意も、キャディの判断も要りません。
私が調べた範囲では、「理由」を求める文言は見つかりませんでした。 それどころか規則の側が、救済後にもう一度アンプレヤブルにできる場面として、あるがままにプレーできない、あるいはプレーしたくないと決めた場合と書いています(詳説19.2/1)。
選べるのは3つで、どれも1罰打です(規則19.2)。
| どうするか | |
|---|---|
| 打ち直し | 直前に打った場所から |
| 後方線上 | ホールと球を結ぶ線の後ろへ。どれだけ下がってもよい |
| 横に2クラブレングス | 球の位置から横へ。ホールに近づかない範囲で |
木の根元や斜面でいちばん現実的なのは、3つ目の「横に2クラブレングス」を選ぶことだと思います。1罰打で、平らな場所に立ち直せる可能性があります。
打てないわけじゃないのに、使っていいんですか?
ここは正確に分けますね。「体を守るために使ってよい」とは、規則には書かれていません。 規則が書いているのは、理由を問わず、あなたひとりで決められるというところまでです。
そこから先は、あなたの選択です。私は理学療法士として、その選択に1票を入れたい、という立場です。
バンカーは、1罰打と2罰打の分かれ道
あごの高いバンカーで、目玉。ここは罰なしの出口がない場所でした。
無理に急角度で振り下ろそうとすると、手首と肘に強い衝撃がきます。しかも足場は砂で不安定です。
規則は、ここに2つの出口を用意しています(規則19.3)。
| どうするか | 罰打 |
|---|---|
| バンカーの中でドロップして打ち直す | 1罰打 |
| バンカーの外に出して、後ろから打つ | 合計2罰打 |
2罰打を払えば、砂の外の平らな場所から打てます。 2019年にできた選択肢で、知らない方が多いところです。
「2打も」と思うかもしれません。ただ、あごに叩きつけて出ずに、もう1打、もう1打と重ねるほうが、スコアも体も損をしがちです。
👉 腰を守る準備については、こちらもどうぞ ゴルフで腰が痛くなる人へ(ラウンド前の股関節ストレッチ3つ)
ゴルフシューズ(スパイクタイプ)
斜面や雨のあとの柔らかい地面では、まず足が滑らないことが体を守ります。鋲つきのタイプは減っていくものなので、交換できるモデルだと長く使えます。ただし、鋲を履いていても無理な体勢が安全になるわけではありません。足元が決まらない場所では、降りる判断のほうが確実です。
枝を折れば2罰打。降りれば1罰打
ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。
「枝が邪魔で、アドレスが取れない」。そう思ったとき、つい手が出ます。でも、それは違反です。
ストロークに影響を及ぼす状態を改善してはならない(規則8.1a)
枝を折る、草を踏み分ける、地面をならす。どれも一般の罰=2罰打です。しかも、折ったあとで救済を受けても、罰は消えません。
線引きは、ひとことで言えます。
落ちている物はどけてよい。生えている物には手をつけない。
落ち葉、小枝、石、木の実は、罰なしでどけられます(規則15.1)。生きた枝や根は、触れません。
そして、ここから計算です。
- 枝を折って打つ … 2罰打(しかも体は守れていない)
- アンプレヤブルで降りる … 1罰打(平らな場所に立ち直せる)
降りるほうが、安いのです。 罰打の数でも、体への負担でも。
言われてみれば、折るほうが高いんですね……。
そうなんです。多くの人が、高いほうを無意識に選んでいます。
しかも折った瞬間は「1打を守った」つもりなんですよね。実際には1打よけいに払ったうえで、腰もねじっている。この計算を知っているだけで、コースでの判断がずいぶん変わると思います。
タオルの置き方まで、規則は決めています
もうひとつ、意外だったことを。
ブッシュの中の球を打つとき、とげや枝から体を守ろうとしてタオルをかぶせる。木の下でひざまずくとき、ひざが汚れないように地面にタオルを敷く。
どちらも違反です(詳説8.1a/5)。「スタンスの場所を作った」とみなされ、2罰打になります。
一方で、こちらは認められています。
- ⭕️ タオルを自分の腰に巻く
- ⭕️ レインウエアを着る
境目は、物を置いて足場をこしらえたかどうか。身につけるのはよくて、置くのはダメ、というわけです。
体を守る話をしている記事としては、ここは正直に書いておかなければなりません。規則は、守り方まで決めています。 ですから現実的な結論は、こうなります。
服で守れる範囲は服で守る。それを超えるところは、降りる。
ゴルフ用レインウェア(上下)
規則の上で「着てよい」と認められているのが、レインウエアです。腕や脚を通しておけば、ブッシュ際の細かい擦り傷は避けられます。伸びる素材のものを選ぶと、振ったときに肩まわりが窮屈になりません。体が冷えると腰も張りやすくなるので、雨の日は早めに着ておくのがおすすめです。
大事なところ ── 2つの救済は、性質がまったく違います
ここまで2種類の救済が出てきました。この2つは、受けられる条件がまるで違います。 ここを混ぜると分かりにくくなるので、整理します。
| 罰なしの救済 (カート道・修理地など) |
アンプレヤブル (1罰打) |
|
|---|---|---|
| いつ使えるか | 条件を満たしたときだけ | いつでも |
| 誰が決めるか | 条件に当てはまるかどうか | 自分ひとりで決められる |
| 理由 | 条件を満たす必要がある | 問われない |
つまり、こういうことです。
「タダで動かす」には、条件が要ります。 「1打払って動かす」なら、条件は要りません。
アンプレヤブルのほうは、本当に自由です。 打てるか打てないかも関係ありません。自分が「やめておこう」と思えば、それで成立します(ペナルティーエリアの中を除きます)。
では、条件のほうはどこで引っかかるのか
罰なしの救済のほうには、ひとつ歯止めがあります。わざと不自然な構えを作って、条件を満たしたことにするのはダメ、という決まりです(規則16.1a(3))。
規則の解説に、こんな例が出ています。
球が悪いところにある。普通に構えればカート道は関係ない。でも「今日は左打ちで打つつもりです」と言えば、道に足がかかる。だから救済してほしい——
答えは認められないです。悪いライから逃げたいだけの不自然な構えだから、というのが理由です。
ただし、ここからが大事です。規則は、その人を突き放しません。同じ文章の中で、こう続けています。
あるがままにプレーするか、アンプレヤブルの球の救済を受けなければならない
つまり——タダの出口は閉じたけれど、1罰打の出口はちゃんと開いているのです。
まとめると
- タダで動かせるか … 場所しだい。木の根元・斜面には、タダの出口はありません
- 1打払って動かせるか … いつでも、どこでも(池の中を除く)。あなたの判断だけで
「救済を受けられるか」で迷ったときは、まずタダの条件に当てはまるか見る。当てはまらなければ、1打払うかどうかを自分で決める。 この順番で考えれば、コースで迷いません。
なお、カート道でスタンスだけがかかる場合の救済は、コースによっては使えないことがあります(委員会がそう決められるため)。その日の紙を読む、というのは、やはりここでも同じです。
おわりに ── 3回を通して
3回にわたって、ゴルフのルールを見てきました。
1回目は道具。古いウェッジもボールも、世間で言われているほど心配はいりませんでした。 2回目はプレー。「前進4打」は、規則のどこにも書かれていませんでした。 そして今回。規則は「体を守れ」とは言いませんが、降りる自由は保証していました。
3回とも、行き着いた場所は同じでした。
規則本体なのか、その日の委員会が決めたことなのか。
そしてもうひとつ、最後に書いておきたいことがあります。
ゴルフは、自分で自分に罰を科すという、めずらしい競技です。審判がいないところで、自分から1打を足す。その正直さがこの競技の背骨だと、私は思っています。
だとすれば、自分の体を守るために1打を払うことも、同じくらい正しいはずです。
その1打は、逃げではありません。次のラウンドに行くための、いちばん安い投資です。 60代、70代になっても振り続けるために、私はそう考えています。
3回おつきあいくださって、ありがとうございました。コンペの朝、要項の紙を1分だけ読む——それがこの3部作の、いちばん実用的な結論です。
この記事は、日本ゴルフ協会が公開しているゴルフ規則とオフィシャルガイドをもとに書いています。規則の解釈で迷ったときは、参加する競技の委員会にご確認ください。また、痛みが続く場合は自己判断せず、整形外科などの受診をおすすめします。