背中を大きくひねってバックスイングするゴルファーのイラスト

回すのは腰ではなかった 〜ゴルフに必要な可動域と筋力(第1回・体幹編)〜

「もっと腰を回して」 練習場でも、レッスン動画でも、たぶん一度は聞いたことのある言葉だと思います。ところが体のつくりを調べていくと、この言葉は最初からかなり無理を言っている ことが分かります。 腰は、そもそもほとんど回らない関節だからです。 今回から3回にわたって、ゴルフに必要な「関節の動く範囲(可動域)」と「筋力」 を、体の場所ごとに見ていきます。第1回は体幹——首・背中・腰の3つです。 この記事のポイント ✅ 体を45度ひねっても、腰の骨の関節ひとつあたりは1〜2度しか回っていません。回っているのは背中(胸椎)と股関節です ✅ 意外なことに、体の柔らかさとヘッドスピードには関係が見つかっていません(20の研究をまとめた解析)。可動域は飛距離のためではなく、腰を守るため に必要なものです ✅ 年齢とともに落ちるのは「ひねり」ではなく 「反る動き」。だから中高年の方には、胸を反らせる運動から始めるのが理にかなっています 腰が痛い人は、こんなに多い まず現実から。男性ゴルファー1,170名(平均55歳)に「この1週間で不調のある場所」を聞いた調査では、腰が37.3% と断トツの1位でした。2位の左ひざ13.3%の、およそ3倍です。 さらに、アマチュアゴルファー910名を5か月間追いかけた調査では、腰まわりのケガは 1年に1人あたり1.26回 の割合で起きていました。そして、そのせいでゴルフを休むことになった日数も、体のほかのどの場所より長く なっていました。腰は、いちばん痛めやすくて、いちばん長くコースから遠ざかる場所ということです。 あなた やっぱり腰なんですね……。私も、ラウンドの翌日はいつも腰が重いです。 Torapon ゴルファーの体でいちばん弱点になりやすいのが腰です。ただ、腰そのものを鍛えても、あまり解決しない んですよ。理由は、この次にお話しします。 腰は「回らない」のが正解 ここが今日のいちばんお伝えしたいところです。 MRIを使って、体を45度ひねったときに背骨のどこがどれだけ回っているかを立体的に測った研究があります。結果は——腰の骨(腰椎)の関節ひとつあたり、たったの1.2〜1.7度 でした。 古典的なレントゲン研究でも、腰椎の関節ひとつのひねりは約2度。腰椎全体を足し合わせても、片側でせいぜい 7〜13度 しかありません。 一方で、スイングでは体を大きくひねります。その差はどこから来ているのか。答えは 背中(胸椎)と股関節 です。 あなた では「腰を回して」と言われて、腰を回そうとしていたのは……。 Torapon できないことをやろうとしていた、ということになります。腰は回すところではなく、支えるところ。回す仕事は背中と股関節の担当です。ここが入れ替わってしまうと、腰に無理がかかります。 背中が硬いと、腰が肩代わりする これは実際に測られています。 プロゴルファー30名を「股関節が20度未満しか内側に回らない人」と「30度以上回る人」に分けて比べたところ、回らない人のほうが、スイング中に腰を曲げる量・ひねる量・横に倒す量が有意に大きく なっていました(米国スポーツ医学誌, 2015年)。回るはずの場所が回らないと、腰が代わりに動いてしまうわけです。 背中側でも同じことが観察されています。腰痛のあるプロと、ないプロのスイングを比べた研究では、腰痛のあるプロは、ふだん使える体のひねりの量が少なく、その結果スイングでは「限界を超えたひねり」を強いられていた という報告があります(英国スポーツ科学誌, 2002年)。ただしこちらは各グループ6名だけの小さな研究なので、参考程度に受け取ってください。 つまり—— 背中と股関節が回る → 腰は支えるだけで済む 背中と股関節が硬い → 足りない分を腰が肩代わりする → 痛める ですから、ゴルフの腰痛でいちばん大事なのは、痛む腰そのものではなく、その上下——背中と股関節をやわらかくすること です。腰をいくらもんでも、回るべき場所が硬いままなら、次のラウンドでまた同じことが起こります。痛いところと、原因のあるところが違う。 これはリハビリの現場でも、毎日のように出会う話です。 首については、正直まだ分かっていません ここは誠実にお伝えします。 ゴルフでは、ボールを見続けながら体を回すので、首はかなり特殊な使われ方をします。首の不調を訴えるゴルファーは8.7%(前出の1,170名調査)。決して少なくありません。 ただ、スイング中に首が何度回っているかをきちんと計測した研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。ネットでよく見かける「ゴルファーの首は70度以上回るべき」といった数字も、指導団体が現場で使っている目安であって、研究で検証されたものではないようです。 あなた そういうのって、はっきり書いてもらえると逆に安心します。 Torapon 分かっていないことを「分かっている」ように書くのは、いちばんやってはいけないことだと思っています。首が回りにくい方は、無理に基準を目指すより「痛みなく振り向けるか」を目安に してください。振り向くと痛い・しびれる、という方は運動より先に受診をおすすめします。 ...

August 8, 2026 · 2 分
リンクスコースで振り抜いた女子ゴルファーの後ろ姿のイラスト

15キロやせて、メジャーで勝った 〜桑木志帆選手の体づくり(前編・生活とトレーニング)〜

2026年8月2日。イングランドのロイヤルリザム&セントアンズで行われた AIG全英女子オープン で、桑木志帆選手(23歳) がプレーオフを制し、メジャー初優勝を果たしました。日本勢としては2年連続、7人目の女子メジャー制覇です。 このニュースを、私は理学療法士としてずいぶん違う角度から見ていました。というのも、優勝の背景に 「1年で13〜15キロの減量」 があり、しかもその狙いが 飛距離ではなかった からです。 彼女が体重を落とした理由は、こうでした。 膝と腰への負担を減らすため。 これは、当ブログがずっと書いてきたことと、まったく同じ考え方です。今回は前編として、桑木選手が1年かけて何をしたのか を、体の専門家の目で読み解いてみます。 この記事のポイント ✅ きっかけは「ズボンのボタンが弾けた」こと。減量の狙いは飛距離ではなく 膝と腰を守ること でした ✅ 体重1キロの差は、膝にとっては 歩くだけで約3キロ、階段では4〜7キロ分 の差になります。15キロなら—— ✅ やったことは特別ではありません。アプリでカロリーを記録する/揚げ物とジュースを控える/コーヒーはブラック。それだけです 目次 きっかけは「ズボンのボタン」だった 狙いは飛距離ではなく、膝と腰だった やったこと、やめたこと 前傾姿勢が崩れない体をつくる 勝因のもうひとつは「準備」だった 私たちが真似できること おわりに きっかけは「ズボンのボタン」だった まず、この話がいいなと思うのは、始まりがまったく格好よくないところです。 優勝後の会見で、桑木選手はこう明かしています。 「1回、ズボンのボタンが弾けて『あっ、これやばい』と思ったので、やせようと決意しました」 メジャーチャンピオンの減量が、ズボンのボタンから始まっている。ここに、私はとても勇気づけられました。きっかけなんて、その程度でいい ということだからです。 さらに興味深いのは、この減量が 専属トレーナーに相談せずに、自分の判断で始められた ということ。桑木選手は2023年5月から小楠和寿トレーナーと契約していますが、減量そのものは「自分自身で決めてやっています」と話しています。 あなた プロなのに、トレーナーさんに相談せずに減量したんですか? 少し意外です。 Torapon 私も驚きました。ただ、自分の体の変化に自分で気づいて、自分で決めた というのは、じつは長続きの条件でもあります。人から言われて始めたことは、たいてい途中でやめてしまいますから。 狙いは飛距離ではなく、膝と腰だった ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。 報道によれば、桑木選手が減量に取り組んだ狙いは 膝や腰への負担を軽くすること でした。飛距離を伸ばすためではありません。 体重1キロは、膝にとって何キロ分か 体重が膝にかける負担は、体重そのものではありません。歩いたり階段を上ったりするとき、膝には体重の何倍もの力がかかります。 よく言われている目安が、これです。 動作 膝にかかる力 体重1キロ減ると 平地を歩く 体重の約3倍 約3キロ分 軽くなる 階段の昇り降り 体重の約4〜7倍 約4〜7キロ分 軽くなる では、桑木選手の15キロは、どうなるでしょうか。 平地を歩くだけで、およそ45キロ分。階段では、60〜100キロ分。 膝にとっては、大人ひとり分の荷物を下ろした ようなものです。ゴルフは1ラウンドで数キロ歩き、傾斜を上り下りするスポーツですから、この差は4日間の試合で効いてきます。 ...

August 17, 2026 · 1 分
ラウンド後半、疲れた様子でクラブを構えるゴルファーのイラスト

後半に崩れるのは、気のせいじゃなかった 〜お腹を疲れさせるだけでスイングが変わった、という研究〜

前半は、そこそこ回れた。 なのに14番あたりから、急にダフりはじめる。同じように振っているつもりなのに、球が上がらない。おかしいな、と思いながら18番まで来てしまう。 「集中力が切れたのかな」で片づけていませんか。 私もそう思っていました。ところが2026年、慶應義塾大学のグループが出した研究を読んで、見方が変わりました。技術でも、集中力でもなく、「疲れそのもの」がスイングの形を変えていたのです。 この記事のポイント ✅ お腹まわりの筋肉を疲れさせただけで、スイング中に体を支える力が落ちました。腕も技術も、何も変えていないのにです ✅ しかも疲れは、パターの練習だけでも起きます。「激しく振ったから疲れる」とはかぎりません ✅ だから鍛えたいのは、体幹の「力の強さ」ではなく「持たせる力」です。10秒ずつでいい運動を3つ、最後にご紹介します 体を「動く範囲」から見た話は、こちらの3部作にまとめています。今回は「持久力」の話なので、まったく別の切り口です。 👉 可動域と筋力の3部作(第1回) 目次 お腹を疲れさせてから、7番アイアンを打ってもらった 正直に書いておきたい、この研究の弱いところ パターの練習でも、スイングは変わる やっかいなのは、疲れが自分では分からないこと そして疲れは、腰の痛みの前ぶれかもしれない だから鍛えるのは「強さ」ではなく「持たせる力」 体幹の持久力を育てる3つの運動 ラウンド当日にできること こんなときは専門家に相談を おわりに 参考にした情報 お腹を疲れさせてから、7番アイアンを打ってもらった 研究のやり方は、とてもはっきりしています。 健康なゴルファー11人に、まず7番アイアンで打ってもらい、スイングを細かく計測します。そのあとプランク(うつ伏せで前腕とつま先で体を支える、あの運動です)でお腹まわりの筋肉だけを疲れさせて、もう一度同じように打ってもらう。 腕の筋肉は疲れさせていません。クラブも同じ。技術指導も一切なし。変えたのは「お腹が疲れているかどうか」だけです。 それでスイングは変わるのか。変わりました。 研究チームが測ったのは、スイングのあいだに上半身が前後へ倒れたり起きたりする振れ幅です。同じ人の、疲れる前と疲れたあとを比べています。 上半身が前後に動いた振れ幅 疲れる前 43.4度 疲れたあと 47.9度 約4.5度ぶん、ブレが大きくなりました。 統計的にも、偶然とは考えにくい差でした。 あなた 4.5度と言われても、大きいのか小さいのか分かりません……。 Torapon そうですよね。順番にお話しします。まず、この4.5度というのは「上半身が前後に傾く角度」のことです。疲れる前より、上半身が4.5度ぶん余分に動いてしまった、ということですね。 あなた 上半身が4.5度動くと、どうなるんですか? Torapon 腰を支点にして上半身が4.5度傾くと、いちばん上にある頭は、5〜6センチ動きます(腰から頭までを70センチほどとして計算した、おおよその目安です)。 ゴルフでは、頭の高さが変わると、クラブが地面に当たる場所も変わります。5センチ動けば、ダフリやトップが出てもおかしくありません。「同じように振っているのに当たらない」の正体は、これかもしれないわけですね。 ただし、ここも正直に書いておきます。人による差はかなり大きく(プラスマイナス13度前後)、全員が同じだけブレたわけではありません。 さらに、下半身のかたさにも変化が出ていました。 お腹が疲れると、その分を脚が肩代わりしようとするのだと考えられます。 ここが大事なところです。疲れているのはお腹なのに、変わるのは体全体。 上から下まで、つながっているのですね。 正直に書いておきたい、この研究の弱いところ 先に書いておきます。この研究、参加者は11人だけです。しかも平均20歳の若い方たち。 ですから「ゴルファー全員がこうなる」と言い切れる段階ではありません。「そういう傾向がありそうだ」と分かった段階、というのが正確なところです。 それでも私がこの研究を取り上げたいと思ったのは、やり方がきれいだからです。疲れ以外の条件をすべてそろえたうえで比べているので、「疲れがスイングを変えた」という筋道が、はっきり見えます。 パターの練習でも、スイングは変わる 「じゃあ、後半バテないように体力をつければいいんだな」 そう思われたかもしれません。ただ、話はもう少し込み入っています。 熟練した男性ゴルファーを対象にした別の研究で、こんなことが分かっています。パターの練習をしたあとにフルスイングを計測したところ、 体の各部位が動くスピードのピークが落ちた スイング全体にかかる時間が長くなった ダウンスイングでの骨盤と胸のひねりの量が減った パターです。走ったわけでも、100球打ったわけでもありません。 あなた パターで疲れるんですか? いちばん楽そうなのに……。 Torapon これ、意外ですよね。でも考えてみてください。パターのとき、前かがみの姿勢のまま、じっと止まっているでしょう。動かないぶん、背中とお腹の筋肉はずっと働きっぱなしなんです。疲れとは「激しく動くこと」だけで起きるものではない、ということですね。 ...

August 26, 2026 · 2 分