2026年8月2日。イングランドのロイヤルリザム&セントアンズで行われた AIG全英女子オープン で、桑木志帆選手(23歳) がプレーオフを制し、メジャー初優勝を果たしました。日本勢としては2年連続、7人目の女子メジャー制覇です。
このニュースを、私は理学療法士としてずいぶん違う角度から見ていました。というのも、優勝の背景に 「1年で13〜15キロの減量」 があり、しかもその狙いが 飛距離ではなかった からです。
彼女が体重を落とした理由は、こうでした。
膝と腰への負担を減らすため。
これは、当ブログがずっと書いてきたことと、まったく同じ考え方です。今回は前編として、桑木選手が1年かけて何をしたのか を、体の専門家の目で読み解いてみます。
この記事のポイント
✅ きっかけは「ズボンのボタンが弾けた」こと。減量の狙いは飛距離ではなく 膝と腰を守ること でした
✅ 体重1キロの差は、膝にとっては 歩くだけで約3キロ、階段では4〜7キロ分 の差になります。15キロなら——
✅ やったことは特別ではありません。アプリでカロリーを記録する/揚げ物とジュースを控える/コーヒーはブラック。それだけです
目次
きっかけは「ズボンのボタン」だった
まず、この話がいいなと思うのは、始まりがまったく格好よくないところです。
優勝後の会見で、桑木選手はこう明かしています。
「1回、ズボンのボタンが弾けて『あっ、これやばい』と思ったので、やせようと決意しました」
メジャーチャンピオンの減量が、ズボンのボタンから始まっている。ここに、私はとても勇気づけられました。きっかけなんて、その程度でいい ということだからです。
さらに興味深いのは、この減量が 専属トレーナーに相談せずに、自分の判断で始められた ということ。桑木選手は2023年5月から小楠和寿トレーナーと契約していますが、減量そのものは「自分自身で決めてやっています」と話しています。
プロなのに、トレーナーさんに相談せずに減量したんですか? 少し意外です。
私も驚きました。ただ、自分の体の変化に自分で気づいて、自分で決めた というのは、じつは長続きの条件でもあります。人から言われて始めたことは、たいてい途中でやめてしまいますから。
狙いは飛距離ではなく、膝と腰だった
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
報道によれば、桑木選手が減量に取り組んだ狙いは 膝や腰への負担を軽くすること でした。飛距離を伸ばすためではありません。
体重1キロは、膝にとって何キロ分か
体重が膝にかける負担は、体重そのものではありません。歩いたり階段を上ったりするとき、膝には体重の何倍もの力がかかります。
よく言われている目安が、これです。
| 動作 | 膝にかかる力 | 体重1キロ減ると |
|---|---|---|
| 平地を歩く | 体重の約3倍 | 約3キロ分 軽くなる |
| 階段の昇り降り | 体重の約4〜7倍 | 約4〜7キロ分 軽くなる |

では、桑木選手の15キロは、どうなるでしょうか。
平地を歩くだけで、およそ45キロ分。階段では、60〜100キロ分。
膝にとっては、大人ひとり分の荷物を下ろした ようなものです。ゴルフは1ラウンドで数キロ歩き、傾斜を上り下りするスポーツですから、この差は4日間の試合で効いてきます。
15キロで、そんなに変わるんですか……。私も5キロくらいなら落とせそうな気がしてきました。
5キロでも十分です。歩くときで 15キロ分、階段で 20〜35キロ分。ラウンド後半の膝の重だるさは、ここでかなり変わります。飛距離のためでなく、18ホール歩き切るため と考えると、続けやすいと思います。
腰にとっても同じこと
腰も同様です。当ブログの可動域と筋力シリーズ でご紹介したように、ゴルファーがいちばん痛めやすいのは腰 で、男性ゴルファー1,170名の調査では37.3%が腰に不調を抱えていました。2位の左ひざ13.3%の、およそ3倍です。
腰にかかる力も、上半身の重さに比例します。おなかまわりが軽くなれば、それだけ背骨の負担も減ります。
つまり減量は、腰痛対策でもあるということです。
やったこと、やめたこと
では、桑木選手は具体的に何をしたのか。報道されている内容は、拍子抜けするほどシンプルです。
やめたこと
- 揚げ物を控える
- ジュースを控える
始めたこと
- 食事のときに、アプリでカロリーを計算する
- コーヒーは ブラック で飲む
これだけです。期間は2025年の春から、約1年。

特別な食事法も、流行のサプリも、出てきません。「記録する」「揚げ物とジュースを減らす」 ——この2つだけで、13〜15キロ落ちています。
「記録する」がいちばん効いている
理学療法士の目で見ると、いちばん効いたのはアプリでの記録 だろうと思います。
人は、自分が何をどれだけ食べたかを、驚くほど覚えていません。記録をつけると、それだけで食べる量が減ることが知られています。我慢するのではなく、見えるようにするだけ で行動が変わるのです。
そして、揚げ物とジュース。この2つは、量のわりにカロリーが高い という共通点があります。減らしても、お腹の満足感はあまり減りません。効率のいいところから手をつけている わけです。
アプリはちょっと難しそうです。ノートに書くのでもいいでしょうか。
まったく問題ありません。大事なのは「あとから自分で見返せる形にする」こと です。手帳でも、カレンダーの端でもかまいません。正確さより、続くやり方を選んでください。
結果、体はどう変わったか
減量後、桑木選手はこう語っています。
「疲れにくくなって、体のキレも増した」
そして2025年5月の「Sky RKBレディス」で優勝。そこから約1年後、全英女子オープンのタイトルにつながりました。
「地道なことを続けてきて、コンディションが上がってきた実感がある」——この言葉が、すべてを表していると思います。
前傾姿勢が崩れない体をつくる
減量と並行して、桑木選手が続けてきたのがトレーニングです。
契約する小楠和寿トレーナーが公開している種目のひとつが、腹直筋(ふくちょくきん=おなかの前側の筋肉) を鍛えるものです。
やり方
仰向けの足上げ
- 仰向けになり、両足を垂直に伸ばす
- 膝のあたりに クッションや大きめのボール をセットする
- そこから お腹を引っ込め、背中を丸めるように 足首の方向へ押し上げる
- 10回×2セット から始める

注意点:垂直に伸ばした足は倒さないこと。体がかたい方は、まず動きながらのストレッチから始めてください。痛みがあるときは無理をしないでください。
なぜ、この運動なのか
ここが理学療法士として面白いところです。
前傾姿勢を保っているのは、おなかと背中の筋肉 です。ここが弱ると、スイング中に前傾が起き上がってきます。前傾が起きると、手元の通り道が変わり、当たる場所が毎回ずれます。
そしてダウンスイングで お腹を引っ込める と、手元の通り道が確保され、インパクトで力が伝わりやすくなります。
つまりこの運動は、「腹筋を割るため」ではなく「アドレスの形を最後まで保つため」 のものだということです。
私は当たりが毎回バラバラなんです。それも前傾が起きているせいでしょうか。
可能性は高いです。「後半になるとダフリやトップが増える」 という方は、疲れて前傾を保てなくなっていることが多いですね。技術ではなく、持久力の問題 だったりします。
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勝因のもうひとつは「準備」だった
体づくりと並んで、桑木選手が優勝インタビューで繰り返していたのが 「準備」 という言葉でした。
前年の反省から
前年の全米女子プロ選手権について、彼女はこう振り返っています。
「早めに入らなくて、その週に入って準備不足だと感じた」
そこで今シーズンは、すべてのメジャー大会で早めに現地入り して調整を重ねました。
時間帯を変えて、コースを歩いた
全英女子オープンの舞台となったロイヤルリザム&セントアンズには、174個のポットバンカー があります。ここを避けるために、桑木選手は 早朝・夕方と時間帯を変えて練習ラウンド を行いました。
理由は、風や地面の硬さで、ボールの転がりが変わるから です。同じコースでも、朝と夕方では別の顔をしています。
「期待しすぎない」
そしてプレーオフ。外せばほぼ負けという1メートル強のパーパットを、彼女はさほど時間をかけずに沈めました。
「期待しすぎても固まっちゃうので、あんまり期待しすぎないことだったり……パターとか、そんなに考えても仕方ないなって思っている」
ここも、体を扱う人間としてうなずけるところです。力を入れようとするほど、動きは硬くなります。 リハビリの現場でも、「うまくやろう」と気負った瞬間に動作がぎこちなくなる方をよく見ます。考えすぎないことが、いちばんの技術 ということが、確かにあるのです。
私たちが真似できること
プロと同じことはできません。でも、考え方はそのまま持ち帰れます。
- ☑ 減量の目的を「飛距離」ではなく「膝と腰」に置く。そのほうが続きます
- ☑ まずは 記録から。アプリでも手帳でも。我慢の前に、見えるようにする
- ☑ 揚げ物と甘い飲み物 から減らす。満足感を減らさずにカロリーを落とせます
- ☑ 5キロでも十分 に意味があります(歩行で15キロ分、階段で20〜35キロ分)
- ☑ 体幹は 「割るため」ではなく「前傾を保つため」。10回×2セットから
- ☑ 大事なラウンドの前は、早めに行って歩いてみる。時間帯が違えば転がりも違います
- ☑ パットは 考えすぎない。期待しすぎると固まります
おわりに
桑木選手の話で私がいちばん打たれたのは、やっていることが どれも地味だった ことです。
ズボンのボタンが弾けて、やせようと思った。揚げ物とジュースを減らした。カロリーを記録した。腹筋を10回2セットやった。早めに現地に行って、時間帯を変えてコースを歩いた。
そのどれにも、真似できないものがありません。
飛距離が伸びる魔法や、一発で変わる練習法を探してしまう気持ちは、私にもよく分かります。でも、メジャーチャンピオンが1年かけてやっていたのは、こういうことでした。
次回・後編では、桑木選手の 2025年シーズンのスタッツ を見ていきます。じつは彼女、ドライビングディスタンスは20位 です。それでもメジャーで勝てた理由が、数字にはっきり出ています。
今の体で、できることから。 応援しています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。減量やトレーニングの効果には個人差があります。持病のある方や、痛み・不調が続く場合は、自己判断せず医師・専門家にご相談ください。膝や腰の負担についての倍率は、一般に用いられている目安であり、体格や動作によって変わります。