下半身の踏み込みを強調したダウンスイングのゴルファーのイラスト

股関節は、もう限界まで使われている 〜ゴルフに必要な可動域と筋力(第2回・下肢編)〜

第1回・体幹編 では、「腰はほとんど回らない。回っているのは背中と股関節」というお話をしました。 今回はその 股関節 と、その下のひざ・足首を見ていきます。そして、いきなり衝撃的なデータから始めます。 スイング中、左の股関節は「持っている可動域を100%以上」使い切っています。 この記事のポイント ✅ ダウンスイングで、リード側(右打ちの左)の股関節は 使える可動域の84〜131% を使っています。余力がゼロの状態です ✅ ひざへの負担を左右していたのは、体の柔らかさではなく 足の幅と、切り返しで肩が流れるかどうか でした。つまり 構え方を変えるだけで、今日から負担を減らせます ✅ ヘッドスピードといちばん関係が強いのは ジャンプの力の出し方。重い重量より「素早く床を押す」ほうがゴルフ向きです 中高年ゴルファーの、ひざと股関節の実情 まず現状から。男性ゴルファー1,170名(平均55歳)の調査で、この1週間に不調のあった場所は—— 腰 37.3% 左ひざ 13.3%/右ひざ 11.0% 右股関節 9.7%/左股関節 8.5% 腰に次いで多いのが、ひざと股関節です。しかも 左ひざが右ひざより多い 。ここに、ゴルフという競技の特徴がはっきり出ています。 股関節は、左右でまったく違う仕事をしている 女子大学ゴルファー15名のスイングを、可動域の実測値と照らし合わせて分析した研究があります(米国の理学療法専門誌, 2010年)。「その人が持っている可動域のうち、スイング中に何%を使っているか」を計算したものです。 結果はこうでした(右打ちの場合)。 バックスイング ダウンスイング 右(トレイル側)の股関節 内側にひねる力の20〜25%だけ使用 外側にひねる力の34〜37%だけ使用 左(リード側)の股関節 外側にひねる力の50〜75%を使用 内側にひねる力の84〜131%を使用 右の股関節はまだ余裕たっぷり。ところが 左の股関節は、持っているものを使い切って、さらに超えている のです。 あなた 100%を超えるって、どういうことですか? Torapon 落ち着いて寝た状態で測った可動域より、スイングという勢いのある動きのなかでは、もっと深く回っている ということです。つまり、左の股関節には余力がない。ここが硬い人は、足りない分をどこかで補うしかありません。その「どこか」が、たいてい腰なんです。 腰が痛い人は、左の股関節が約10度回らない これも実際に測られています。 アマチュアゴルファー64名を、腰痛の経験がある28名 と ない36名 に分け、年齢・身長・ゴルフ歴・ラウンド数までそろえて比較した研究です(英国の理学療法スポーツ誌, 2009年)。 左(リード側)の股関節を内側にひねる可動域 腰痛のある人:21.1度 腰痛のない人:31.1度 その差、およそ10度。 右側の股関節や、外へひねる動きには差がありませんでした。 ここで大事なことを付け加えます。この研究の著者自身が「因果関係は示せていない」とはっきり書いています。 さらに、ケガのないエリートゴルファー41名を6か月追いかけた別の研究では、股関節の左右差から腰痛の発生を予測することはできませんでした(南アフリカの理学療法誌, 2023年)。 あなた つまり、股関節が硬いから腰が痛くなる、とは言い切れないんですね。 ...

August 9, 2026 · 2 分
フォロースルーで左肩と左手首に負担がかかる様子を描いたゴルファーのイラスト

傷むのは、いつも「左」だった 〜ゴルフに必要な可動域と筋力(第3回・上肢編)〜

ヨーロピアンツアーの選手128名に、手首の障害について聞いた調査があります(英国スポーツ医学誌, 2013年)。30%が手首を痛めていました。 そして、その内訳がこうでした。 小指側の障害の87%、親指側の障害の100%が、リード側(右打ちなら左)の手首。 シリーズ最終回は上肢編。肩・ひじ・手首を見ていきます。テーマは 「なぜ左ばかり傷むのか」 、そして 「体を変えずに助かる方法はあるのか」 です。 この記事のポイント ✅ ゴルフのケガは リード側(右打ちなら左)に集中 します。肩の痛みの66%、手首の障害の大半が左側です ✅ ネットでよく見る「ゴルファーの肩は内側に回りにくくなる」という説は、実測では確認されませんでした ✅ グリップやシャフトを替えるだけで、前腕の筋肉の働きが下がる という研究があります。体を変えなくても、負担は減らせます リード側に、ケガが集まる 第1回 で腰、第2回 で股関節とひざを見てきました。そこでも「左が多い」という話が出てきましたが、上半身ではそれがもっとはっきりします。 理由はシンプルで、右打ちのスイングでは、左腕がクラブを引っぱり、インパクトの衝撃を最初に受け止める側 だからです。右腕は押す側、左腕は支える側。役割がまったく違います。 肩:左肩はスイング中、126度もひねられている 男性アマチュアゴルファーの肩の動きを立体的に測った研究があります(米国整形外科スポーツ理学療法誌, 2003年)。 バックスイングのトップ で、左肩が体の前を横切る角度(水平内転)は、最大で126度 に達していました。腕を胸の前で組む動きの、はるかに深いところまで持っていかれているということです。 トップで左腕が胸を横切る、あの形です。左肩が、可動域のぎりぎりまで引き伸ばされる瞬間 がここにあります。 同じ研究に、中高年の方にとって大事なデータがあります。18〜24歳のグループと、50〜86歳のグループの比較 です。 高齢グループは、肩を上げる動きを 約15%少なく しか使っていない 肩を外へひねる動きを 約30%少なく しか使っていない トップでの右肩の外ひねりは、シニアのほうが38度も少ない あなた 38度って、かなり大きい差ですね。トップが浅くなるのは、そのせいですか。 Torapon かなり関係していると思います。ただ これは横断研究——若い人と年配の人を「比べた」だけ で、同じ人を追いかけたわけではありません。「年をとると必ずこうなる」とまでは言えません。それに第1回でお話ししたとおり、トップが浅いこと自体は、飛距離とは直結していません 。がっかりしなくて大丈夫です。 ネットでよく見る「肩の内旋制限」は、見つかりませんでした 野球のピッチャーには、投げる側の肩が内側に回りにくくなる現象(GIRD)が知られています。これをゴルフに当てはめた記事をよく見かけますが—— エリート男性ゴルファー24名の肩を実際に測った研究では、左肩と右肩で、外ひねり・内ひねり・合計のどれにも差がありませんでした(米国の理学療法専門誌, 2008年)。 左肩 右肩 外へひねる 90.3度 91.0度 内へひねる 51.8度 50.1度 合計 142.1度 141.2度 きれいなくらい、差がありません。著者は「24名の予備的な研究であり、年齢などの要因が影響を隠している可能性もある」と慎重に書いていますが、少なくとも「ゴルファーの肩は野球の投手と同じように変形する」という話には、根拠が乏しい ということです。 練習しすぎると、左肩の腱板が傷む 一方で、中高年アマチュアにとって見過ごせないデータもあります。 ...

August 10, 2026 · 2 分
力強くクラブを振り抜くシニアゴルファーのイラスト

落ちたのは「力」ではなく「速さ」だった 〜飛距離を生む「速筋」の科学〜

前回の「可動域と筋力 」3部作の最後に、こう書きました。 飛距離を生んでいたのは、柔らかさではなく「素早く力を出す能力」のほうでした。 書きながら、これは宿題を残したな、と思っていました。じゃあその「素早く力を出す能力」とは、体の中の何なのか。どうすれば取り戻せるのか。今回はそこを、まっすぐ書きます。 先に結論をお伝えします。年齢とともに飛ばなくなるのは、力が落ちたからではありません。速さが落ちたからです。 そして落ちた速さは、重いものを持ち上げる練習では戻りません。 この記事のポイント ✅ 筋肉には「速い係」と「遅い係」があり、年齢で減るのは、ほぼ速い係だけ です。20歳から80歳までに、遅い係が1〜25%の減少なのに対し、速い係は20〜50% 減ります ✅ ダウンスイングは およそ0.2〜0.3秒。ところが人が最大の力を出しきるには0.3秒以上かかります。つまりゴルフのスイングは、「いちばん強い力」が間に合わない動き です ✅ 速い係のスイッチが入るかどうかは、重さではなく「速く動かそうとする気持ち」 で決まります。だから軽い負荷でも、速筋は鍛えられます 「力はあるのに、飛ばない」の正体 こんな経験はないでしょうか。 昔と比べて、特に力が弱くなった感じはしない。買い物袋も持てるし、階段も上がれる。なのに、ドライバーだけが明らかに飛ばなくなった。 これは気のせいでも、技術の衰えでもありません。体の中で、実際にそういうことが起きています。 筋肉は一種類ではなく、大きく2つの係に分かれています。 遅筋(ちきん/タイプI線維)=「持久の係」 ゆっくり、長く働き続けるのが得意。歩く、立っている、姿勢を保つ、といった仕事を担当します。 速筋(そっきん/タイプII線維)=「瞬発の係」 一瞬で大きな力を出すのが得意。跳ぶ、投げる、ダッシュする、そしてクラブを振る。こちらの担当です。 買い物袋を持つのも階段を上がるのも、実は「持久の係」の仕事です。だから日常生活では衰えに気づきにくい。ところがスイングは、ほぼ全部が「瞬発の係」の仕事 です。 あなた 言われてみれば……。日常で困っていることは何もないんです。ゴルフだけなんですよ、落ちたのを感じるのは。 Torapon それが自然なんです。ゴルフは、日常生活でいちばん使わない側の筋肉を全力で使うスポーツ ですから。逆に言うと、ゴルフは体の衰えにいちばん早く気づける場所でもあります。 年齢で減るのは、速い係「だけ」 ここが今日いちばん知っていただきたいところです。 加齢による筋肉の衰えは、全体が均等に細るのではありません。 太ももの筋肉(外側広筋)を20歳から80歳まで比べた古典的な研究では、筋肉全体の断面積が約40% 小さくなっていました。ところがその中身を線維の種類ごとに見ると、減り方がまったく違いました。 複数の研究をまとめると—— 遅筋(持久の係)の細り方 … 1〜25% 速筋(瞬発の係)の細り方 … 20〜50% つまり、歳を重ねて失われるのは、ほぼ「速さ」の部分 ということです。 もうひとつ、印象的な数字があります。研究では、筋力の落ち方は、筋肉の量の落ち方より2〜5倍も速い と報告されています。鏡を見て「そんなに細くなっていないけどな」と思っても、出せる力はそれよりずっと速く落ちている、ということです。 そして、力よりもさらに先に落ちるのがパワー です。パワーとは、力の大きさに、動きの速さを掛け合わせたもの をいいます。 同じ重さを持ち上げられる2人でも、サッと軽々と持ち上げる人と、うんうん言いながらゆっくり上げる人がいます。この差がパワー です。 そして研究では、このパワーが低い人ほど、その後に歩く力が落ちたり、入院したりしやすい ことが分かっています。筋肉の太さや握力よりも、パワーのほうが、その人のこの先をよく言い当てていました。 あなた 細くなっていないのに力は落ちていて、その力よりさらに速さが先に落ちている……。順番があるんですね。 Torapon 順番があります。「速さ」→「力」→「太さ」の順に失われていく と考えてください。だから飛距離は、体つきが変わる前に落ち始めるんです。裏を返せば、いちばん先に手を打つべきは「速さ」 ということでもあります。 ゴルフのスイングは「最大の力」が間に合わない ここからが、ゴルフならではの話です。 トップから切り返して、ボールに当たるまで。このダウンスイングにかかる時間は、研究でおよそ0.2〜0.3秒 と測られています。まばたきよりも短い時間です。 一方で、人間の体が最大の力を出しきるまでには、0.3秒以上かかる と言われています。 ...

August 16, 2026 · 2 分