ヨーロピアンツアーの選手128名に、手首の障害について聞いた調査があります(英国スポーツ医学誌, 2013年)。30%が手首を痛めていました。

そして、その内訳がこうでした。

小指側の障害の87%、親指側の障害の100%が、リード側(右打ちなら左)の手首。

シリーズ最終回は上肢編。肩・ひじ・手首を見ていきます。テーマは 「なぜ左ばかり傷むのか」 、そして 「体を変えずに助かる方法はあるのか」 です。

この記事のポイント

✅ ゴルフのケガは リード側(右打ちなら左)に集中 します。肩の痛みの66%、手首の障害の大半が左側です

✅ ネットでよく見る「ゴルファーの肩は内側に回りにくくなる」という説は、実測では確認されませんでした

グリップやシャフトを替えるだけで、前腕の筋肉の働きが下がる という研究があります。体を変えなくても、負担は減らせます

リード側に、ケガが集まる

第1回 で腰、第2回 で股関節とひざを見てきました。そこでも「左が多い」という話が出てきましたが、上半身ではそれがもっとはっきりします。

体の左側(リード側)に肩・肘・手首の障害が集中することを示した人体図

理由はシンプルで、右打ちのスイングでは、左腕がクラブを引っぱり、インパクトの衝撃を最初に受け止める側 だからです。右腕は押す側、左腕は支える側。役割がまったく違います。

肩:左肩はスイング中、126度もひねられている

男性アマチュアゴルファーの肩の動きを立体的に測った研究があります(米国整形外科スポーツ理学療法誌, 2003年)。

バックスイングのトップ で、左肩が体の前を横切る角度(水平内転)は、最大で126度 に達していました。腕を胸の前で組む動きの、はるかに深いところまで持っていかれているということです。

トップで左腕が胸を横切る、あの形です。左肩が、可動域のぎりぎりまで引き伸ばされる瞬間 がここにあります。

同じ研究に、中高年の方にとって大事なデータがあります。18〜24歳のグループと、50〜86歳のグループの比較 です。

  • 高齢グループは、肩を上げる動きを 約15%少なく しか使っていない
  • 肩を外へひねる動きを 約30%少なく しか使っていない
  • トップでの右肩の外ひねりは、シニアのほうが38度も少ない
あなた あなた

38度って、かなり大きい差ですね。トップが浅くなるのは、そのせいですか。

Torapon Torapon

かなり関係していると思います。ただ これは横断研究——若い人と年配の人を「比べた」だけ で、同じ人を追いかけたわけではありません。「年をとると必ずこうなる」とまでは言えません。それに第1回でお話ししたとおり、トップが浅いこと自体は、飛距離とは直結していません 。がっかりしなくて大丈夫です。

ネットでよく見る「肩の内旋制限」は、見つかりませんでした

野球のピッチャーには、投げる側の肩が内側に回りにくくなる現象(GIRD)が知られています。これをゴルフに当てはめた記事をよく見かけますが——

エリート男性ゴルファー24名の肩を実際に測った研究では、左肩と右肩で、外ひねり・内ひねり・合計のどれにも差がありませんでした(米国の理学療法専門誌, 2008年)。

左肩 右肩
外へひねる 90.3度 91.0度
内へひねる 51.8度 50.1度
合計 142.1度 141.2度

きれいなくらい、差がありません。著者は「24名の予備的な研究であり、年齢などの要因が影響を隠している可能性もある」と慎重に書いていますが、少なくとも「ゴルファーの肩は野球の投手と同じように変形する」という話には、根拠が乏しい ということです。

練習しすぎると、左肩の腱板が傷む

一方で、中高年アマチュアにとって見過ごせないデータもあります。

韓国のアマチュアゴルファー77名(平均48.5歳)の肩を超音波で調べた研究です(韓国リハビリテーション医学誌, 2017年)。

  • 痛みのある側は、66.2%がリード側(左)
  • 超音波で 77.9%に腱板(肩を支える腱)の断裂 が見つかった
  • 週4時間以上の練習が、棘上筋の断裂と有意に関連
あなた あなた

77.9%に断裂……そんなに? 私も痛くはないですが、心配になってきました。

Torapon Torapon

落ち着いてくださいね。これは 肩に痛みがある人だけを集めた研究 です。ゴルファー全員がこうなるわけではありません。ただ、ひとつ大事なことを教えてくれています。痛みを我慢して練習量を増やすと、腱にダメージが蓄積する。 「たくさん打てば上手くなる」は、40代を過ぎたら通用しにくくなります。打つ数より、質と休養 です。

ひじ:「ゴルフ肘」なのに、テニス肘のほうが多い

ここは、ちょっと意外な話です。

  • 外側上顆炎(いわゆるテニス肘):一般人口の1.3%
  • 内側上顆炎(いわゆるゴルフ肘):一般人口の0.4%

テニス肘のほうが、約4倍多いのです。 しかも、内側上顆炎(ゴルフ肘)の 90%以上は、スポーツとは関係のない原因 で起きているとされています。

ゴルファー1,170名の調査でも、ひじの不調は右7.6%・左5.3%と、肩やひざより少ない結果でした。

あなた あなた

「ゴルフ肘」なのに、ゴルファーがなりにくいんですか。

Torapon Torapon

名前が独り歩きしている典型例です。ひじの内側が痛い=ゴルフのせい、とは限りません。 重い荷物、パソコン、家事、日曜大工——ひじの内側を痛める原因は日常にたくさんあります。ゴルフをやめる前に、まず日常の使い方を見直してみてください。

なお、右打ちの場合は 外側の痛みは左ひじ、内側の痛みは右ひじ に出やすいとされています。ひじのセルフケアは、こちらの記事にまとめています。

👉 ゴルフで肘が痛い人へ(ゴルフ肘のセルフケア)

手首:上手い人ほど、インパクトで手首が「立って」いない

手首については、面白い研究があります。

男性28名を ハンディキャップ0〜5の上級者15名10以上の13名 に分け、スイング中の手首の動きを立体計測したものです(豪州スポーツ医科学誌, 2012年)。

ハンディキャップの多いグループのほうが、左手首の 橈屈——親指側へ手首を折る動き——が大きく出ていました。

  • ピークで 5.7度大きい
  • インパクトの瞬間で7.1度大きい

つまり 上級者ほど、インパクトで手首が「立って」いない。手が先行してヘッドが後から来る、いわゆるハンドファーストの状態です。

ただし、著者はこう付け加えています。上級者のこの動きは、左手首の小指側にかかるストレスを増やす可能性がある。

あなた あなた

上手くなると、かえって手首を痛めるということですか。

Torapon Torapon

そういう面はあると思います。冒頭のプロの調査で 小指側の障害の87%が左手首 だったのは、まさにこれでしょう。上手い動きにも、代償はある。 だから上達を目指す方こそ、左手首のケアを一緒に始めてほしいんです。

手のひらの付け根が痛むとき は、注意が必要です。グリップの端が小指側の付け根に当たり続けて、有鉤骨という小さな骨のかぎ状の突起が折れる ことがあります。腱鞘炎と間違われやすいのが厄介なところで、報告されている例では8週間ゴルフを休んで回復しています。

なかなか引かない手のひらの痛みは、レントゲンだけでは写りにくいことがあります。 長引く場合は、ゴルフをしていることを伝えたうえで受診してください。

👉 ゴルフで手首が痛い人へ(手首のセルフケア)

体を変えずに助かる方法:道具を替える

ここが、このシリーズでいちばんお伝えしたい「希望」の話です。

① グリップの形を替える

右打ちのゴルファー30名(平均32歳)に、ふつうのグリップ指の当たる位置が凹凸で成形されたグリップ で10球ずつ打ってもらい、前腕の筋肉の働きを筋電図で測った研究があります(英国の運動器専門誌, 2024年)。

結果、左腕の手首を伸ばす筋肉・曲げる筋肉・前腕をひねる筋肉のすべてで、スイングのいくつかの局面で筋活動が有意に低下 しました。論文の結論は「グリップを替えることが、ゴルフ肘やテニス肘の予防策になりうる」というものです。

ただし、ここは正直に書いておかなければなりません。この研究で使われた凹凸つきのグリップは、練習用の道具 です。ゴルフのルールでは 「手の形に合わせて成形されたグリップ」は認められていない ので、競技では使えません

あなた あなた

えっ。じゃあ意味がないじゃないですか。

Torapon Torapon

そうとも言えないんです。この研究が教えてくれたのは 「グリップの形が変わると、前腕の力みは本当に変わる」 ということ。練習場でだけ使う という手はありますし、握り方そのものを見直すきっかけにもなります。

とくに 練習量の多い方 は要注意です。この記事の前半でお話ししたように、週4時間以上の練習が左肩の腱の傷みと関連 していました。ひじや手首も同じで、痛みが出るのは本番より練習場 のことが多いんです。だから「練習のときだけ負担を軽くする」のは、じつはかなり理にかなっています。

競技でも使える範囲でできることは、こんなところです。

  • 太さを変える——細すぎるグリップは、握り込む力が強くなりやすいと言われます。手の大きさに合った太さ(またはやや太め)にすると、力みが抜けやすくなります
  • やわらかい素材にする——衝撃が手に伝わりにくくなります
  • すり減ったグリップを交換する——ツルツルのグリップは「滑らないように強く握る」ことにつながります。1年に1回、または40〜50ラウンドごと が交換の目安とされています

② シャフトをカーボンに替える

さらに、平均51歳・平均ハンディキャップ16 のゴルファー40名を対象に、スチールシャフトとカーボンシャフト(グラファイトシャフト)を比べた研究もあります。カーボンのほうが、前腕の筋活動が下がっていました

こちらはルール上まったく問題ありません。アイアンをカーボンシャフトのものに替える のは、そのまま実戦で使える対策です。年齢とともにスチールがつらくなってきた方には、ひじと手首を守るという意味でも根拠のある選択肢になります。

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キャロウェイゴルフ 公式オンラインストア

カーボンシャフトを選べるアイアンやクラブがそろう公式ストア。シャフトだけを買って差し替えると工賃がかかるので、はじめから軽いカーボン仕様のものを選ぶほうが手間がかかりません。ひじや手首に不安のある方は、試打してから決めるのが安心です。

あなた あなた

いきなりクラブを買い替えるのは、勇気がいりますね。

Torapon Torapon

もちろんです。まずはすり減ったグリップを1本替えてみる ——ここからで十分だと思います。数百円から千円台でできて、握る力の入れ方が変わります。

クラブの買い替えを考えるとしても、必ず試打してからにしてください。カーボンは軽くなるぶん、振り心地がずいぶん変わります。ひじをかばうつもりで替えたのに、振りにくくて力んでしまっては元も子もありませんから。

あなた あなた

道具を替えるだけで、体への負担が変わるんですね。

Torapon Torapon

体を変えるには数か月かかりますが、道具は今日替えられます。 可動域が硬い方、痛みを抱えている方には、まずこちらをおすすめしたいくらいです。理学療法士として「まず体を鍛えましょう」と言いたいところですが、楽になる道が他にあるなら、それを先に使わない手はありません

すり減ったグリップを1本替える、アイアンを軽いカーボンに替える。そのくらいのことで、ひじや手首にかかる力が変わる ——これは体の硬い方にとって、かなり心強い話だと思います。

自分で測ってみる:肩と手首のチェック

① 背中で手を組む(肩の総合チェック)

  • 片手を上から背中へ、もう片方を下から背中へ回し、指先が届くか
  • 左右を入れ替えて、届き方に差があるか を見ます
  • 差が大きいほうが、硬くなっている側です

② 壁に背中をつけてバンザイ

  • 壁に背中・お尻・後頭部をつけて立ちます
  • 腰を反らせずに、両腕をまっすぐ上げて壁につけられるか
  • つかない方は、胸まわりか肩が硬くなっています

③ 前腕のひねり

  • ひじを体の横につけて90度に曲げ、手のひらを上へ、下へ と返します
  • ひじが体から離れないように。左右の返り方の差 を見てください

④ 手首の折れ具合

  • 手のひら同士を胸の前で合わせ、ひじが水平になるまで下げられるか(手首を反らせる動き)
  • 次に手の甲同士を合わせて、同じように(手首を曲げる動き)

改善トレーニング:自宅でできる5つ

前半3つは 立ったままできる肩まわりの運動 です。

肩甲骨まわし、壁スライド、ドアウェイストレッチの3つを並べた図解

① 肩甲骨まわし

  • 両手を肩に置き、ひじで大きく円を描きます。前まわし10回、後ろまわし10回
  • 肩ではなく 肩甲骨から動かす意識

② 壁スライド

  • 壁を背に立ち、ひじと手の甲を壁につけて「バンザイ」の形
  • 壁から離さないまま、ゆっくり腕を上下 させます。10往復
  • 離れてしまうところが、あなたの硬いところです

③ ドアウェイ・ストレッチ(胸を開く)

  • ドアの枠に前腕を当て、ひじを肩の高さに して、体を一歩前へ
  • 胸の前が伸びる感じで30秒。高さを変えて2〜3か所

残りの2つは、寝てやるものと、腕を伸ばすもの です。

④ スリーパー・ストレッチ(肩の内ひねり)

スリーパーストレッチのやり方。横向きに寝てひじを90度に曲げ、反対の手で手を床のほうへ倒す

  • 横向きに寝て、下側の腕を肩の高さで前に出し、ひじを90度 に曲げます
  • 反対の手で、下側の手をゆっくり床のほうへ 倒します
  • 30秒 × 左右2回。痛みが出る手前で止めてください

⑤ 前腕のストレッチ

前腕のストレッチのやり方。腕を前に伸ばし、反対の手で指先を下へ引く

  • 腕をまっすぐ前に伸ばし、手のひらを上に。反対の手で 指先を下へ引きます。30秒
  • 次に手のひらを下にして、手の甲側を下へ引きます。30秒
  • 左右。ひじの内側・外側の張りに効きます

目安:5つ合わせて8分。毎日やってかまいません。

握力については、慎重に

「握力を鍛えれば飛ぶ」という話をよく聞きます。ここも正直に書きます。

握力とスコアや飛距離の関係を調べた研究はいくつかありますが、その強さは研究によってかなりばらついています。しかも多くはレビュー論文が紹介している数字で、元の研究まで確認できたものは限られています。

さらに、20の研究をまとめた解析では、握力を含む「腕の最大筋力」よりも、瞬発力(速く力を出す能力)のほうが、ヘッドスピードとの関係が強い という結果でした。

そして——強く握ることは、ひじと手首の負担を増やす方向に働きます。 この記事でご紹介したグリップの研究が、まさにその逆(握りやすくすると筋活動が下がる)を示していました。

握力を鍛えるより、握らなくて済む道具を選ぶ。 中高年ゴルファーには、こちらのほうが理にかなっていると思います。

シリーズのまとめ:3回で分かったこと

全3回、おつかれさまでした。まとめます。

  • 第1回・体幹編 = 腰はほとんど回らない。回るのは背中と股関節。年齢で落ちるのは「ひねり」ではなく「反り」
  • 第2回・下肢編 = 左股関節は限界まで使われている。ひざの負担はスタンス幅で変えられる
  • 第3回・上肢編(今回) = ケガはリード側に集中する。道具で負担を減らせる

そして、3回を通してのいちばん大きな結論はこれです。

可動域は、飛距離のためではなく、長くゴルフを続けるためのもの。

20の研究をまとめた解析で、柔軟性とヘッドスピードには統計的な関係が見つかりませんでした。飛距離を生んでいたのは、素早く力を出す能力 のほうです。

だから——

  • 体が硬いことは、飛距離をあきらめる理由になりません
  • 可動域を上げるのは、腰やひざが肩代わりして痛むのを防ぐため
  • 飛距離がほしいなら、重い重量よりも「速く動く」練習
  • そして 70代でも、8週間で約5%上がる(第1回でご紹介した研究です)

当ブログの飛距離シリーズは、これで4本そろいました。

なお、この記事の自己チェックはあくまで目安です。自分の体のどこが足りていないのかを正確に知りたい方 は、一度プロの目で見てもらうのが近道になります。

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ライザップゴルフ|無料体験レッスン

弾道計測器でヘッドスピードやボール初速を測りながら、専属トレーナーがマンツーマンで体の使い方を分析。可動域や筋力のどこが足かせになっているのかを、スイングと合わせて見てもらえます。まずは無料体験から。

痛みが出たら

  • 運動の 最中に痛みが走る → その場で中止
  • 腕を上げると痛い・夜、肩が痛くて目が覚める → 整形外科へ(腱板の問題かもしれません)
  • 手のひらの付け根の痛みが2週間以上続く → ゴルフをしていることを伝えて受診を
  • 指のしびれをともなう → 神経の問題の可能性があります。自己判断せず受診を
  • 持病のある方、肩や手の手術を受けたことのある方 → 始める前に主治医へご相談ください

部位別のセルフケアは、こちらをどうぞ。

👉 ゴルフで肩が痛い方へ(肩のセルフケア) 👉 ゴルフで肘が痛い人へ(ゴルフ肘のセルフケア) 👉 ゴルフで手首が痛い人へ(手首のセルフケア)

おわりに

このシリーズを書きながら、何度も立ち止まりました。「体を柔らかくすれば飛ぶ」と書けたら、記事としてはずっと分かりやすい。でも研究は、そう言っていませんでした。

代わりに研究が教えてくれたのは、もっと現実的なことです。硬くても飛ばせる。けれど硬いまま無理に振ると、どこかが肩代わりして痛む。 だから可動域は、飛ばすためではなく、明日も再来年も、痛みなくコースに立つため に整える。

そしてもうひとつ。足りないものを、必ずしも体で埋めなくていい。 スタンスを広げる、グリップを替える、シャフトを替える——研究がちゃんと効果を示している「逃げ道」が、いくつもありました。

リハビリの現場でも同じです。失われた機能をすべて取り戻せる方ばかりではありません。それでも、道具と工夫と、少しずつの運動で、やりたいことに戻っていく方をたくさん見てきました。

ゴルフも同じだと思います。今の体で、できることから。 応援しています。


※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。トレーニングの効果には個人差があります。持病のある方や、痛み・不調が続く場合は、自己判断せず医師・専門家にご相談ください。