前回の「可動域と筋力 」3部作の最後に、こう書きました。

飛距離を生んでいたのは、柔らかさではなく「素早く力を出す能力」のほうでした。

書きながら、これは宿題を残したな、と思っていました。じゃあその「素早く力を出す能力」とは、体の中の何なのか。どうすれば取り戻せるのか。今回はそこを、まっすぐ書きます。

先に結論をお伝えします。年齢とともに飛ばなくなるのは、力が落ちたからではありません。速さが落ちたからです。 そして落ちた速さは、重いものを持ち上げる練習では戻りません。

この記事のポイント

✅ 筋肉には「速い係」と「遅い係」があり、年齢で減るのは、ほぼ速い係だけ です。20歳から80歳までに、遅い係が1〜25%の減少なのに対し、速い係は20〜50% 減ります

✅ ダウンスイングは およそ0.2〜0.3秒。ところが人が最大の力を出しきるには0.3秒以上かかります。つまりゴルフのスイングは、「いちばん強い力」が間に合わない動き です

✅ 速い係のスイッチが入るかどうかは、重さではなく「速く動かそうとする気持ち」 で決まります。だから軽い負荷でも、速筋は鍛えられます

「力はあるのに、飛ばない」の正体

こんな経験はないでしょうか。

昔と比べて、特に力が弱くなった感じはしない。買い物袋も持てるし、階段も上がれる。なのに、ドライバーだけが明らかに飛ばなくなった

これは気のせいでも、技術の衰えでもありません。体の中で、実際にそういうことが起きています。

筋肉は一種類ではなく、大きく2つの係に分かれています。

遅筋(ちきん/タイプI線維)=「持久の係」 ゆっくり、長く働き続けるのが得意。歩く、立っている、姿勢を保つ、といった仕事を担当します。

速筋(そっきん/タイプII線維)=「瞬発の係」 一瞬で大きな力を出すのが得意。跳ぶ、投げる、ダッシュする、そしてクラブを振る。こちらの担当です。

筋肉の中にある速筋と遅筋の違いを、はたらき・得意な動きで並べて比べた図

買い物袋を持つのも階段を上がるのも、実は「持久の係」の仕事です。だから日常生活では衰えに気づきにくい。ところがスイングは、ほぼ全部が「瞬発の係」の仕事 です。

あなた あなた

言われてみれば……。日常で困っていることは何もないんです。ゴルフだけなんですよ、落ちたのを感じるのは。

Torapon Torapon

それが自然なんです。ゴルフは、日常生活でいちばん使わない側の筋肉を全力で使うスポーツ ですから。逆に言うと、ゴルフは体の衰えにいちばん早く気づける場所でもあります。

年齢で減るのは、速い係「だけ」

ここが今日いちばん知っていただきたいところです。

加齢による筋肉の衰えは、全体が均等に細るのではありません

太ももの筋肉(外側広筋)を20歳から80歳まで比べた古典的な研究では、筋肉全体の断面積が約40% 小さくなっていました。ところがその中身を線維の種類ごとに見ると、減り方がまったく違いました。

複数の研究をまとめると——

  • 遅筋(持久の係)の細り方 … 1〜25%
  • 速筋(瞬発の係)の細り方 … 20〜50%

年齢とともに遅筋はあまり変わらず、速筋だけが大きく細っていく様子を示した図

つまり、歳を重ねて失われるのは、ほぼ「速さ」の部分 ということです。

もうひとつ、印象的な数字があります。研究では、筋力の落ち方は、筋肉の量の落ち方より2〜5倍も速い と報告されています。鏡を見て「そんなに細くなっていないけどな」と思っても、出せる力はそれよりずっと速く落ちている、ということです。

そして、力よりもさらに先に落ちるのがパワー です。パワーとは、力の大きさに、動きの速さを掛け合わせたもの をいいます。

同じ重さを持ち上げられる2人でも、サッと軽々と持ち上げる人と、うんうん言いながらゆっくり上げる人がいます。この差がパワー です。

そして研究では、このパワーが低い人ほど、その後に歩く力が落ちたり、入院したりしやすい ことが分かっています。筋肉の太さや握力よりも、パワーのほうが、その人のこの先をよく言い当てていました。

あなた あなた

細くなっていないのに力は落ちていて、その力よりさらに速さが先に落ちている……。順番があるんですね。

Torapon Torapon

順番があります。「速さ」→「力」→「太さ」の順に失われていく と考えてください。だから飛距離は、体つきが変わる前に落ち始めるんです。裏を返せば、いちばん先に手を打つべきは「速さ」 ということでもあります。

ゴルフのスイングは「最大の力」が間に合わない

ここからが、ゴルフならではの話です。

トップから切り返して、ボールに当たるまで。このダウンスイングにかかる時間は、研究でおよそ0.2〜0.3秒 と測られています。まばたきよりも短い時間です。

一方で、人間の体が最大の力を出しきるまでには、0.3秒以上かかる と言われています。

並べてみると、おかしなことに気づきます。

ダウンスイングの0.2〜0.3秒と、最大の力が出るまでの0.3秒以上を時間軸で並べて比べた図

スイングは、最大の力が出そろう前に終わってしまう のです。

これは、飛距離に悩む方にとってかなり大事な事実だと思います。ジムで扱う重量が増えても、それがそのまま飛距離にならないのは、根性や技術の問題ではありません。そもそも、その力を出しきる時間がスイングには無い からです。

だとすれば、スイングで問われているのは「どれだけ大きな力を出せるか」ではなく、「最初の0.2秒で、どれだけ力を立ち上げられるか」 ということになります。

専門用語では、これを力の立ち上がり速度(RFD:Rate of Force Development)と呼びます。同じ最大筋力の2人でも、この立ち上がりが速い人のほうが、スイングでは強い。そういう能力です。

そして、この立ち上がりを担当しているのが——冒頭からお話ししている速筋 です。

研究も「速さ」を指していた

第1回でご紹介した、20の研究をまとめた解析(Brennan ら、2024年)をもう一度見てみます。

ヘッドスピードと関係が強かったものを、強い順に並べるとこうなります。

体の能力 ヘッドスピードとの関係
ジャンプの力積(踏み切りで床を押した力の総量) r = 0.68 ← 最強
上半身の爆発力(ボール投げなど) r = 0.58
ジャンプの最大パワー r = 0.58
ジャンプの高さ r = 0.49
上半身の筋力(握力・ベンチプレスなど) r = 0.45
下半身の筋力(スクワットなど) r = 0.44
柔軟性 r = −0.04(関係なし)
バランス r = −0.06(関係なし)

上から4つが、全部ジャンプと投げ=一瞬で力を出す動き です。そして、爆発力のほうが筋力より上に来ています 。論文の著者たちも、はっきりこう述べています。

「爆発的な力の発揮のほうが、最大筋力より重要である」

柔軟性とバランスに関係が見つからなかったのは前回書いたとおりですが、こうして並べると、この表が言いたいことはひとつです。ヘッドスピードを決めているのは、力の大きさではなく、力の速さ。

速筋のスイッチは「気持ち」で入る

ここが、今日いちばんの朗報です。

「速筋を鍛えるには、重いものを扱わないといけない」と思われがちですが、実はもう少し優しい仕組みになっています。

速筋のスイッチが入るかどうかを決めているのは、実際の動きの速さでも、重さでもありません。「できるだけ速く動かそう」という気持ち(意図)のほうです。

体は、「これは全力の仕事だ」と判断したときに、瞬発の係を呼び出します。その判断は、扱っている重さではなく、本人の意図で決まります。 だから——

軽い負荷でも、「全力で速く」やれば速筋は働きます。

膝や腰に不安があってバーベルを担げない方でも、速筋は鍛えられるということです。これは中高年のゴルファーにとって、とても大きな意味を持ちます。

逆のことも、研究で確かめられています。ある14週間のトレーニング研究では、テンポを一定に保って丁寧に行う筋トレ をした結果、最大筋力は18%も伸びた のに、力の立ち上がりの速さはまったく伸びませんでした

あなた あなた

ということは、ゆっくり丁寧な筋トレを続けていても、飛距離のほうは……。

Torapon Torapon

強くはなるけれど、速くはならない んです。丁寧な筋トレが悪いわけではまったくありません。土台としては必要です。ただ、それだけでは足りない。「速く動かす日」を別につくる 必要がある、ということですね。

どう鍛えるか——「軽く、速く」の処方箋

では実際にどうするか。研究で示されている目安を、先に数字でまとめます。

速さを取り戻すトレーニングの目安

  • 負荷 … 軽め〜中くらい(自分が一度に挙げられる最大の重さの4〜6割程度)
  • 動かし方 … 持ち上げる(縮める)局面を、できるだけ速く
  • 回数 … 6〜10回 × 2〜4セット
  • 頻度 … 週2〜3回
  • 期間 … 10週間以上つづける

ポイントは3つです。

① 重さより「速さ」を優先する 速く動かせなくなる重さは、その日は重すぎます。フォームが崩れずに、鋭く動かせる範囲で選んでください。

② 戻すときはゆっくり 速くするのは「押す・立ち上がる・振る」の局面だけ。戻す局面まで速くすると、筋肉を痛めやすくなります。行きは鋭く、帰りは丁寧に。

③ 疲れきるまでやらない これは持久力の練習ではありません。速く動けなくなった時点で、そのセットは終わり です。10回できても、7回目から明らかに鈍っていたら、そこで止めてかまいません。むしろそのほうが効きます。

また、複数の研究をまとめた検討では、筋力トレーニングとパワートレーニングを組み合わせたときが、どちらか片方だけよりも効果的 でした。ジャンプ系の運動を8週間行った研究では、クラブスピード・ボール初速に加えて、ミート率まで向上 しています。

土台をつくる筋トレと、速さを引き出す練習。両方あって、はじめて飛距離になります。

始める前に、必ず読んでください

速い動きには、この練習ならではのリスクがあります。

いきなり全速力で行うと、関節や筋肉、腱を痛めてしまうことがあります。

ウォーミングアップはもちろんですが、それに加えて——

最初の数回は、速度を落として行ってください。 そこで痛みが出ないことを確かめてから、少しずつ速さを上げていきます。

急ぐ必要はまったくありません。1セット目は「確かめる回」と考えて、2セット目から本気を出す。それで十分に効果は出ます。

ウォーミングアップの手順は、以前の記事速振りをケガなく続ける体づくり にまとめてありますので、そちらをご覧ください。

やってみる運動

その1|椅子から「パッ」と立つ

椅子に浅く腰かけ、立ち上がる瞬間だけを全力で速く。座るときは3秒かけてゆっくり。5〜8回を2セット。手すりや机に手を添えて行ってかまいません。いちばん安全に「速く動かす意図」を練習できる運動です。

椅子に浅く腰かけた姿勢から、勢いよく立ち上がる動きを2コマで示した図

その2|かかと上げ、速く

壁に手をついて立ち、かかとを弾くように速く持ち上げる。下ろすのはゆっくり。10回を2セット。ふくらはぎは速筋の割合が高く、地面を蹴る力に直結します。

壁に手をついて立ち、かかとを弾くように速く持ち上げる動きを示した図

その3|腕を組んで、体を鋭く回す

スイングのときのようにやや前傾姿勢 で立ち、胸の前で腕を組みます。その姿勢から、体を右から左へ鋭く回します(右利きの方の場合)。5回を2セット。

いちばん大事なのは、頭の位置と体の軸がブレないこと です。回すたびに頭が左右に流れてしまうようなら、速さを落としてください。ここでブレる方は、スイングでも同じことが起きています。鏡や窓に自分を映しながらやると分かりやすいです。

胸の前で腕を組み、頭の位置を保ったまま体を右から左へ鋭く回す動きを2コマで示した図

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痛みが出たら

速い動きは効果が高いぶん、無理をすると痛めやすい練習でもあります。

  • 運動の最中に痛みが走る → その場で中止
  • 速く動かすと痛いが、ゆっくりなら痛くない → 速さを落として様子を見る。それでも続くなら受診を
  • アキレス腱・ふくらはぎに突然の痛み → 速い動きで起きやすいケガです。すぐに中止して受診を
  • 持病のある方、心臓や血圧に不安のある方、関節の手術を受けたことのある方 → 始める前に必ず主治医へご相談ください

部位別のセルフケアは、こちらをどうぞ。

👉 ゴルフで腰が痛くなる人へ 👉 ゴルフで肘が痛い人へ 👉 ゴルフで肩が痛い方へ

飛距離シリーズの、答え合わせ

当ブログでは、飛距離をいろいろな角度から書いてきました。今回の話は、その全部につながっています。

  • スピードトレーニング3部作軽い道具で速く振る。あれが効くのは、速筋のスイッチが「意図」で入るからでした
  • 地面反力3部作地面を押す力。表でいちばん上に来た「ジャンプの力積」は、まさにこれです
  • ミート率3部作速さをロスなく伝える。速さは、当たらなければ意味がありません
  • 可動域と筋力3部作痛みなく続けられる体。速く振るほど、守りが要ります
  • 速筋(今回)その速さを生んでいる、体の中身

おわりに

理学療法士として高齢の方のリハビリに関わっていると、この「速さから失われる」という順番を、よく目にします。

転びそうになったとき、とっさに足が出るかどうか。信号が点滅してから、渡りきれるかどうか。そういう場面で問われるのは、力の大きさではなく、力の速さ です。そして速さは、何もしなければ確実に落ちていきます。

ただ、これは悪い話ばかりではありません。速さは、軽い負荷でも取り戻せる からです。重いバーベルを担がなくてもいい。膝が悪くても、腰に不安があっても、「速く動かそうとする」ことはできます。

ゴルフを続けている方は、その練習をすでに週に何度もやっているとも言えます。素振りは、立派な速筋のトレーニング です。

飛距離のために始めた運動が、10年後に転ばない体をつくっている。私はこの仕事をしていて、そういう回り道がいちばん確かだと思っています。

今の体で、できることから。 応援しています。


※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。トレーニングの効果には個人差があります。持病のある方や、痛み・不調が続く場合は、自己判断せず医師・専門家にご相談ください。