姉妹サイトの健康ブログで、少し前にこんな記事を書きました。

「ゴルフを続けている人は、認知機能が下がっていた割合が低かった」(4,575人の研究)。

書いた本人としては、うれしい結果でした。ゴルフを続ける理由が、また一つ増えたと思ったからです。

ところがその直後に、日本から別の研究が出ました。5,074人を4年間追いかけた研究です。そこでは、ゴルフをしている人のほうが認知症になりにくい、とは言い切れませんでした

正直に言うと、最初にこの結果を見たときは困りました。でも中身をよく読んでいくと、困るどころか、いちばん勉強になる論文でした。今日はそれを、数字ごと共有します。

この記事のポイント

✅ 生の数字では、ゴルフをしている人の認知症は2.5%。何もしていない人の10.9%より、はっきり低いところにいました

✅ ところが年齢や学歴などの条件をそろえて計算し直すと 0.48 になりました。これは「何も運動していない人を1.00としたとき、ゴルフをしている人は0.48」という意味です。ただし答えのありうる幅が0.22〜1.04で、上が1.00を超えているため、「変わらない」可能性も消せませんでした

✅ 最後まで残ったのは ゲートボールと筋力トレーニング の2つ。ただし筋トレのほうは、筋トレをしていた193人のうち、認知症になったのが3人だけという、とても少ない人数の上に立った数字です


目次

  1. どんな研究だったのか
  2. この記事に出てくる数字の読み方
  3. 生の数字を、まず見てください
  4. なぜ「効いた」と言えなかったのか
  5. 筋トレの数字も、同じ弱さを持っています
  6. それでも、持ち帰れること
  7. ゴルフに、何を足すか
  8. 前回の記事との答え合わせ
  9. おわりに

どんな研究だったのか

筑波大学などのグループが、2026年8月に『Geriatrics & Gerontology International』という老年医学の専門誌に発表した研究です。

  • 対象は 茨城県笠間市に住む65歳以上の5,074人
  • 平均年齢は 73.0歳、女性が52.3%
  • 2017年に「どんな運動をしていますか」と郵送で調査
  • そこから 4年間 追いかけて、認知症になったかどうかを調べた
  • 期間中に 430人(8.5%) が認知症になった

聞いた運動は17種類。そのうち 参加者が150人以上いた5種類(体操・ウォーキング・ゲートボール・ゴルフ・筋力トレーニング)を、何も運動していない人たちと比べています。

ここが大事なところで、比較の相手は「運動していない人」 です。「ゴルフとウォーキング、どっちが上か」を比べた研究ではありません。


この記事に出てくる数字の読み方

ここから「0.48」のような数字が出てきます。3つだけ覚えていただければ、あとは全部読めます。

① 1.00が「何もしていない人と同じ」という意味

何も運動していない人を1.00として、その運動をしている人が認知症になりやすいかどうかを並べた数字です。1.00より小さいほど、なりにくい。0.50なら「なりやすさが半分」、0.25なら「4分の1」ということになります。

② カッコの中は「答えのありそうな範囲」

たとえば0.48(0.22〜1.04)と書いてあったら、本当のところは0.22から1.04のどこかにありそう、という意味です。ぴったり0.48だと分かったわけではありません。

③ その範囲が1.00をまたいでいたら「判定できず」

範囲の中に1.00が入っているということは、「何もしていない人と同じかもしれない」という可能性が残っているということです。そのため「効いた」とは言い切れない、という扱いになります。

そして、この範囲の広さを決めているのが 認知症になった人の数 です。その人数が少ないほど範囲は広がり、1.00をまたぎやすくなります。

ここが、今日いちばんの山場です。


生の数字を、まず見てください

統計の話に入る前に、手を加えていない生の数字を見ていただきます。

運動の種類 人数 認知症になった人 割合
何もしていない 1,954人 212人 10.9%
体操 2,357人 177人 7.5%
ウォーキング 1,559人 105人 6.7%
ゲートボール 385人 29人 7.5%
ゴルフ 283人 7人 2.5%
筋力トレーニング 193人 3人 1.6%

いかがでしょうか。

ゴルフをしていた283人のうち、4年間で認知症になったのは7人だけ。2.5%です。 何もしていない人(10.9%)と比べると、4分の1以下。むしろ 上から2番目に低い のです。

あなた あなた

えっ、めちゃくちゃ良い数字じゃないですか。これで「効いたとは言えない」と言われるんですか?

Torapon Torapon

そう思いますよね。私も同じところで止まりました。ここから先が、この論文のいちばん面白いところ です。順番に見ていきましょう。


なぜ「効いた」と言えなかったのか

理由は2つあります。どちらも、数字を読むうえで大事な話です。

① 条件をそろえたら、ゴルフの有利さが縮んだ

生の数字をそのまま比べると、ゴルフをしている人と、何もしていない人は、そもそも別の集団です。

考えてみてください。65歳を過ぎてゴルフに行ける方は、

  • 足腰がしっかりしている
  • ある程度の経済的な余裕がある
  • 車を運転できる、あるいは誘ってくれる仲間がいる
  • そもそも大きな持病を抱えていない

認知症になりにくい条件を、最初から持っている方が多いのです。

そこで研究チームは、年齢・性別・学歴・経済状況・一人暮らしかどうか・睡眠時間・気分の落ち込み・BMI・高血圧・脂質異常症・糖尿病・心臓病・関節痛や神経痛——これだけの条件をそろえて計算し直しました。

すると、ゴルフの数字はこう動きました。何もしていない人を1.00としたときの、認知症へのなりやすさです。

0.21 → 0.48

0.21は「何もしていない人の、5分の1くらい」。0.48は「およそ半分」。ゴルフをしている人の有利さは、はっきり縮みました

見えていた有利さの、かなりの部分が「ゴルフのおかげ」ではなく、もともと持っていた条件の違いで説明できてしまった、ということになります。

② 7人では、確かなことが言えない

もう一つが、こちらです。認知症になった人が7人しかいなかった。

7人というのは、統計としては心もとない数です。1人か2人ぶれただけで、結果が大きく動いてしまう。 そのぶん、答えのありそうな範囲が広がります。

条件をそろえたあとのゴルフの数字は 0.48(0.22〜1.04) でした。さきほどの読み方に当てはめてみます。

範囲の上が1.04で、1.00をほんのわずかにまたいでいます。 ですから「何もしていない人と変わらないかもしれない」という可能性が消しきれず、「効いたとは言い切れない」という判定になりました。

1.00を超えている幅は、わずか0.04です。それだけのことで、判定が変わっています。

ここを、ゲートボールと並べてみると、よく分かります。

人数 認知症になった人 割合 条件をそろえたあとの数字 判定
ゲートボール 385人 29人 7.5% 0.68(0.46〜0.99) 効いたと言える
ゴルフ 283人 7人 2.5% 0.48(0.22〜1.04) 言い切れない

割合はゴルフのほうがずっと低いのに、「効いた」と言えたのはゲートボールだけ。 逆転しているように見えますよね。

理由は 認知症になった人の数 です。ゲートボールは29人ぶんのデータがあるので幅が狭くなり(0.46〜0.99)、ぎりぎり1.00を下回りました。ゴルフは7人しかいないので幅が広がり(0.22〜1.04)、1.00をまたいでしまった。

あなた あなた

つまり「ゴルフは効かない」と分かったわけではなく、「人数が足りなくて分からなかった」ということですか。

Torapon Torapon

まさにそのとおりです。 「効果がないと証明された」と「あるかどうか確かめられなかった」は、まったく別のことです。ニュースの見出しでは、この2つがよく混ざります。


筋トレの数字も、同じ弱さを持っています

さて、ここで公平を期しておかなければいけません。

この研究で いちばんきれいな数字が出たのは筋力トレーニング でした。0.26(0.08〜0.81)。何もしていない人を1.00としたとき0.26、つまり 認知症へのなりやすさが4分の1くらい ということで、かなり強い数字です。

ですが——筋トレをしていたのは193人で、そのうち4年間で認知症になったのは3人だけ でした。この「3人」の上に、0.26という数字が乗っています。

ゴルフの7人を「少ない」と言ったのなら、3人はもっと少ない。答えのありそうな範囲も0.08〜0.81と、10倍もの開きがあります。

論文の著者たち自身が、限界の項目に正直にこう書いています。

一部の運動種類では認知症の発症例が少数であり、推定値が不正確で信頼区間が広い可能性がある

つまり、「筋トレをすれば認知症が4分の1になる」と読むのも、やりすぎ なのです。この研究は、そこまでは言っていません。

ほかにも著者は、こんな限界を挙げています。

  • 追跡が 4年と短い。認知症は発症の10年ほど前から活動量が落ちるので、「認知症になりかけていたから運動をやめていた」という逆の順番が混ざっている可能性がある
  • 運動の種類は 本人の記入。思い違いが混ざる
  • 運動を聞いたのは 最初の1回だけ。その後やめた人・始めた人は追えていない
  • 複数の運動をしていた人がいて、効果が 重なって見えている かもしれない
  • 茨城県の1つの市だけのデータなので、そのまま全国に当てはめられるとは限らない

ここまで正直に書いてある論文は、むしろ信頼できると私は思います。


それでも、持ち帰れること

「結局、何も分からなかったのか」と思われたかもしれません。そんなことはありません。

私がこの研究から持ち帰ったのは、次の3つです。

① 何か運動をしている人は、認知症になった人の割合が低かった

5種類すべてが、生の数字では何もしていない人(10.9%)を下回っていました。いちばん高い体操とゲートボールでも7.5%です。種類を選ぶより前に、そもそも何かやっているかどうかのほうが大きい。これは表を素直に読めば分かります。

② 体操とウォーキングは、条件をそろえると「効いた」と言えなくなった

体操0.87(0.71〜1.06)、ウォーキング0.86(0.67〜1.09)。どちらも幅の上が1.00を超えてしまいました。しかもこの2つは人数がいちばん多い(2,357人と1,559人)ので、人数が足りなかったせいにはできません。「歩いていれば安心」とは、この研究からは言いにくいのです。

③ 残ったのは、負荷のかかる運動と、頭と人を使う運動だった

ぎりぎり残った2つを見比べると、性格が違います。

  • 筋力トレーニング … 筋肉にはっきりした負荷をかける
  • ゲートボール … 戦略を考え、相手がいて、順番を待ち、会話がある

前回の健康ブログの記事で「歩く・頭を使う・人と交わる、この3つがそろうこと」と書きましたが、ゲートボールはまさにそれです。そしてゴルフも、本来はまったく同じ性質を持っています。

ゴルフに足りていないものがあるとすれば、それは 筋肉にしっかり力を出させる場面 のほうかもしれません。


ゴルフに、何を足すか

ここからが、このブログらしい話です。

ゴルフは、歩いて・考えて・人と話す運動です。そこはすでに満たしています。ただ、筋肉にはっきりした負荷をかける場面は、ほとんどありません

18ホール歩くのは立派な運動ですが、それは持久の運動です。筋肉に「これは重い」と感じさせる刺激とは別もの です。

そして、この「筋肉に力を出させること」は、飛距離の話ともまっすぐつながります。速筋の記事 で書いたとおり、年齢とともに減るのは瞬発の係の筋肉で、それを取り戻すには 速く動かす練習 が要ります。認知症の話と飛距離の話が、同じ場所を指しているわけです。

やってみる4つ

道具はいりません。いすと、床のスペースだけです。

スクワット、かかと上げ、腹筋、四つん這いで対角の手足を伸ばす運動の4つを並べた図解

① スクワット … いすの前に立ち、お尻を後ろに引きながら、いすに軽く触れるところまで下ろして戻ります。10回×2〜3セット。ひざがつま先より前に出すぎないように。

② かかと上げ … 壁に手をついて、かかとをゆっくり上げて、ゆっくり下ろします。15回×2〜3セット。下ろすときこそ効いています。

③ 腹筋 … 仰向けで膝を立て、おへそをのぞき込むように頭と肩だけを起こします。10回×2〜3セット。首を手で引っぱらないこと。

④ 対角の手足を伸ばす … 四つん這いになり、右手と左脚を同時に、床と平行になるまで伸ばして5秒。左右10回ずつ。腰が反らないよう、お腹に軽く力を入れて。

週2〜3回、20分あれば十分です。 大事なのは重さではなく、「少しきつい」と感じるところまでやることです。

始める前に、ひとつだけ。 痛みが出る動きは、その場でやめてください。「効いている感じ」と「痛み」は別ものです。ひざや腰に持病のある方は、始める前に主治医や担当の理学療法士に一度ご相談ください。

家でやるなら

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トレーニングチューブ(ミニバンド)強度別5本セット

太ももに巻いて横歩きしたり、お尻の運動に負荷を足したりできるゴム輪。股関節まわりのトレーニングは、これ1つで幅が広がります。強度が5段階そろったセットなら、いちばん軽いものから始めて少しずつ上げていけるので、シニアの方にも使いやすいはずです。

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可変式ダンベル(プレートで重さを変えられるタイプ)

ゴムバンドで物足りなくなったら、次はこちら。プレートを付け替えて重さを変えられるので、スクワットもデッドリフトも自宅でできます。いちばん軽い設定から始めて、フォームが安定してから重くしていってください。


前回の記事との答え合わせ

最後に、姉妹サイトの記事との関係を整理しておきます。

前回(健康ブログ) 今回
研究 国立長寿医療研究センター 筑波大学ほか
人数 4,575人 5,074人
調べ方 ある時点での認知機能を比較 4年間の追跡
ゴルフの結果 続けている人のほうが低い(14.1%対21.6%) 生の数字は低いが、条件をそろえると言い切れない

同じテーマでも、調べ方が違えば答えは違って出ます。 前回の研究は「ある時点で比べた」もの、今回は「4年追いかけた」もの。どちらが正しいという話ではなく、両方を並べて眺めるのが正しい読み方 です。

さらに前回の記事で紹介した別の大規模研究(約5万人のJAGES)では、男性のゴルフは0.61 と、はっきり低い結果が出ていました。3つ並べると、こうなります。

  • 約5万人の研究 … ゴルフ(男性)0.61 → 効いていた
  • 4,575人の研究 … 続けている人14.1% → 効いていた
  • 今回5,074人の研究 … 0.48(0.22〜1.04)→ 判定できず

2勝1分け、といったところでしょうか。少なくとも「ゴルフは意味がなかった」と落ち込む結果ではありません。

前回の記事はこちらです。 👉 ゴルフを続けている人は、頭も元気? 〜4,575人の研究が教えてくれた「続けること」の意味〜 (姉妹ブログ「健康の窓口」)


おわりに

私がこの論文を読んで、いちばん考えさせられたのは ゴルフの有利さが縮んだ理由 のほうでした。

条件をそろえたら小さくなった、ということは、裏を返せば ゴルフに行ける状態でいること自体が、すでに大きな財産 だということです。足腰が動いて、車を出せて、誘い合える仲間がいる。それらは全部、認知症になりにくい条件でした。

だとすれば、私たちがやるべきことははっきりしています。その状態を、一年でも長く保つこと。

そのために効くのが、この研究で最後まで残った 筋力トレーニング です。皮肉なようですが、「ゴルフを続けるための筋トレ」が、そのまま「頭を守るための筋トレ」になっているのかもしれません。

数字はまだ確かではありません。認知症になった人が3人と7人、という少なさの上に立った結果です。それでも、筋トレをして損をした人というのを、私はこの仕事で見たことがありません。

今日は、いすから10回立ち座りするところから。 応援しています。

次回は、この続きです。本気でゴルフをやっている101人が、コースの外で実際に何をしているのかを調べた調査をご紹介します。 👉 プロは、すでにやっていた 〜101人の調査でわかった、コースの外の過ごし方〜


※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。研究結果の解釈には限界があり、効果には個人差があります。持病のある方、痛みや不調が続く方は、自己判断せず医師にご相談ください。