前編では、桑木志帆選手が 1年で15キロやせた こと、その狙いが飛距離ではなく 膝と腰を守ること だったことをご紹介しました。
👉 前編をまだの方はこちらから 15キロやせて、メジャーで勝った
今回は後編です。彼女の 2025年シーズンの成績表 を、そのまま見てみましょう。
ひとつだけ、先に言わせてください。この表を見たとき、私は思わず声が出ました。メジャーチャンピオンの飛距離が、20位だったから です。
この記事のポイント
✅ ドライビングディスタンスは 20位。でもパーオン率は 4位 でした
✅ 飛ばす人が勝つのではなく、狙った場所に運べる人 が勝っていました
✅ パットの練習は、道具がなくてもできます。左手だけの片手打ち、3メートル から
目次
- 2025年シーズンの成績表
- 飛距離20位が意味すること
- いちばん凄いのはパーオン率4位
- パットは「左手」で決まる
- フェースの向きを、目で見る
- 頭が動いていないか、確かめる
- 私たちが真似できること
- おわりに
2025年シーズンの成績表
まずは数字を並べます。日本女子ツアーでの、2025年シーズンの成績です。
| 項目 | 数値 | 順位 |
|---|---|---|
| パーオン率 | 73.4% | 4位 |
| 平均バーディ数 | 3.71 | 5位 |
| パーブレーク率 | 20.7% | 5位 |
| 平均ストローク | 70.7 | 6位 |
| パーセーブ率 | 87.4% | 8位 |
| 平均パット数 | 1.79 | 11位 |
| リカバリー率 | 65.5% | 11位 |
| フェアウェイキープ率 | 72.9% | 14位 |
| ドライビングディスタンス | 246ヤード | 20位 |
| サンドセーブ率 | 40.6% | 54位 |
賞金ランキング10位、メルセデスランキング9位、トップ10入り15回。

この表の形を、よく見てください。
上から順に、4位・5位・5位・6位・8位・11位・11位・14位……そして飛距離が20位。 いちばん下がサンドセーブの54位です。
つまり彼女は、飛距離がいちばん苦手な部類の選手 ということになります。それでメジャーを獲りました。
プロで246ヤードというのは、飛ばないほうなんですか?
日本の女子ツアーの中では、真ん中よりやや上 といったところです。ただ、上位の選手は260ヤード以上を打ちますから、トップ争いをする選手としては短いほう ですね。全英の舞台は風の強いリンクスでしたから、なおさらです。
飛距離20位が意味すること
当ブログでは、飛距離をいろいろな角度から追いかけてきました。スピードトレーニング 、地面反力 、そして先日の速筋の話 。
そのうえで、この数字をどう読むか。私はこう思います。
飛距離は「あったほうがいい」もので、「なければ勝てない」ものではない。
前にミート率の記事 で、ロボットを使った試験の結果をご紹介しました。
- ヘッドスピードを100マイルから105マイルに上げても、伸びるのは わずか2ヤード
- 打点を芯の0.5インチ下から芯に直すと、8ヤード 伸びる
速く振ることより、正確に当てることのほうが、ずっと大きい。 桑木選手のスタッツは、これを人間が実際にやって見せたようなものです。
ここは、正直に補足しておきます。飛距離が要らない、という意味ではありません。 246ヤードは、アマチュアの平均から見れば十分に飛んでいます。彼女は「飛ばない選手」ではなく、「飛距離で勝負していない選手」 なのです。
そして、その代わりに何で勝負しているのか。それが次の数字です。
いちばん凄いのはパーオン率4位
パーオン率73.4%、4位。
パーオンとは、規定の打数でグリーンに乗せることです。パー4なら2打目まで、パー5なら3打目まで。桑木選手は、18ホール中およそ13ホールで、規定打数どおりにグリーンへ乗せている ことになります。
飛距離が20位で、パーオン率が4位。この組み合わせが意味するのは、ひとつです。
飛距離が短くても、狙った場所に運べている。
ここで、フェアウェイキープ率も見ておきましょう。72.9%で14位。悪い数字ではありませんが、特別に優れた数字でもありません。
そうすると、こういうことになります。
飛距離20位。フェアウェイキープ14位。それがパーオンになると、いきなり4位。
ティーショットの時点では、彼女は上位ではないのです。順位が跳ね上がるのは、2打目から。 差がついているのは、グリーンを狙う一打だということになります。

全英女子オープンの舞台には、174個のポットバンカー がありました。あの深いアリ地獄のようなバンカーに入れば、出すだけで1打を失います。
飛ばす人ほど、危ない場所まで届いてしまう。 飛距離を追わず、グリーンに乗せきる人のほうが、あのコースでは強い。桑木選手のスタッツは、そういうコースと相性がよかったとも言えます。
サンドセーブ率が54位というのは、弱点なんでしょうか。
そう見えますが、そもそもバンカーに入る回数が少ない という可能性もあります。パーオン率が4位なのですから。苦手な場所には、そもそも行かない。 これも立派な戦い方です。
パットは左手で決まる
さて、ここからは私たちが真似できる話です。
桑木選手のパッティングについて、専門誌で解説されているポイントは3つでした。
① アドレス 両手を近づけて握り、肩を平行に します。こうすると体の軸を中心にした、肩で打つストロークがしやすくなります。
② ストローク 左手首の角度を変えず、肩の上下動で打ちます(右利きの場合)。手先でこねないということです。
③ 練習法:左手の片手打ち
これが、いちばん取り入れやすいものです。
左手だけの片手打ち
- 左手だけ でパターを持つ
- 左肩を支点 にして、左肩とヘッドの距離・関係が変わらないようにストロークする
- 距離は 3メートル がひとつの目安

理学療法士の目で見ると、この練習は理にかなっています。
片手にすると、手先でごまかせなくなる のです。両手だと、右手の力で無理やり方向を変えられてしまう。左手だけなら、肩から動かすしかありません。体の使い方を、道具ではなく制約で覚えさせる やり方です。
しかも、お金がかかりません。まずはこれで十分 だと思います。
3メートルというのは、どうしてでしょう。もっと短くてもいいのでは?
1メートルだと、多少ズレても入ってしまうんです。3メートルは、ズレが結果に出るぎりぎりの距離。 入ったか外れたかで、自分の動きが採点される。ちょうどいい長さなんですね。
フェースの向きを、目で見る
もう少し厳密に確かめたい方へ。
桑木選手が全英制覇の背景として挙げていたのが、レーザーを使ったアドレスの練習 でした。
やっていることは、こうです。
- パターのフェースに レーザーの照射器 をセットする
- カップの奥に ボード を置く
- アドレスすると、フェースの向きどおりに ボードへ光が当たる
これで、構えた時点でフェースが狙った方向を向いているか、どれだけズレているか が目に見えます。
なぜこれが大事か。人は、自分が真っ直ぐ構えているかどうかを、自分では分からない からです。リハビリの現場でも同じで、「まっすぐ立ってください」と言われて本当にまっすぐな方は、まずいません。ズレは、見せてあげないと直らない。
⚠️ 念のため。 桑木選手が使っている器具のメーカー名・製品名は、どの記事にも書かれていません。ここで紹介するのは「同じ考え方の器具」であって、ご本人が使っているものではありません。
パターレーザーポインター(Deoway)
パターに取り付けて、フェースの向きを光の線で見えるようにする器具です。2,000円ほど。ただしレビューに「屋外の明るいグリーンでは線が見えない」という声があり、これは室内練習用と考えてください。自宅の廊下やパターマットで使うぶんには十分に役目を果たします。
頭が動いていないかを確かめる
もうひとつ、パットで見落とされがちなものがあります。頭です。
先日の速筋の記事 で、「腕を組んで体を鋭く回す」運動をご紹介しました。あのとき強調したのが、頭の位置と体の軸がブレないこと でした。
パットでも、まったく同じことが起きています。ほとんどのゴルファーは、パットのあいだに頭が動いています。 ご本人は「止まっている」と思っているのに、です。
頭が動く原因は、たいてい体の軸のほうにあります。ストロークに合わせて前後に体が流れたり、目に見えないくらいの体重移動が起きたりしている。軸が動いていれば、狙った方向には打てません。
これを見えるようにする器具もあります。帽子に付けて、自分の目の前にレーザーを出すタイプです。頭がわずかに動くと、目の前の光がグラッと揺れて教えてくれます。
ツアーレーザー(パターマット工房)
帽子に取り付けて、パット中の頭と体の軸のブレを見えるようにする器具です。3,000円ほど。「自分は止まっている」と思っている方ほど、最初は驚かれると思います。上のフェース向きの器具とは目的が違うので、混同しないようご注意ください。
道具は、どちらか片方でもいいでしょうか。
もちろんです。というより、まずは左手の片手打ちから で十分だと思います。それを何週間か続けて、「自分のどこがズレているのか知りたい」と思ったときに、はじめて道具の出番です。順番を逆にすると、道具が押し入れに眠ります。
私たちが真似できること
前編と合わせて、桑木選手から持ち帰れることをまとめます。
- ☑ 飛距離の順位は、勝敗を決めていません。狙った場所に運べるかどうかです
- ☑ 苦手な場所(バンカーなど)は、そもそも行かない設計 にする
- ☑ パットは 左手だけの片手打ち、3メートル。お金はかかりません
- ☑ 左肩を支点に、左肩とヘッドの距離を変えない
- ☑ 構えたときの フェースの向き は、自分では分かりません。見える形にする
- ☑ パット中の 頭のブレ も、自分では分かりません
- ☑ 道具は 練習を続けてから。先に買うと使わなくなります
おわりに
前編と後編、2回に分けて桑木志帆選手を追いかけてきました。
減量の狙いは膝と腰。飛距離は20位。パーオン率は4位。パットの練習は左手の片手打ち。準備は早めの現地入りと、時間帯を変えた練習ラウンド。
どれも、派手ではありません。
メジャーチャンピオンの話を読むとき、私たちはつい「何か特別なもの」を探してしまいます。でも、実際に出てきたのは 地味なことの積み重ね でした。
そして、そのほとんどが、私たちにも真似できるものでした。飛距離を20ヤード伸ばすのは難しくても、曲げないこと、狙った場所に運ぶこと、頭を動かさないこと なら、今日から取りかかれます。
今の体で、できることから。 応援しています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。スタッツは2025年シーズンの日本女子ツアーの記録によります。紹介した練習器具は、桑木選手が使用しているものではなく、同じ目的で使える市販品です。痛みや不調が続く場合は、自己判断せず医師・専門家にご相談ください。