「私、体はやわらかいほうなんです。なのに飛ばないんです」
女性のアマチュアゴルファーから、こんな相談を受けたことがあります。
たしかに、一般に女性のほうが体はやわらかい。前屈もできる。開脚もできる。それなのに、同じくらいの腕前の男性より飛ばない。
やわらかさが足りないのではなく、やわらかさの向きが違った。2026年に出た研究を読んで、私はそう考えるようになりました。
この記事のポイント
✅ 同じ腕前の男女29人を細かく測ったところ、女性が柔らかかったのは13の検査のうち3つだけ。しかもゴルフにいちばん効く「ねじる方向」は、男女で差がありませんでした
✅ 差がついていたのは、地面を「素早く」押す力と、ダウンスイングで骨盤と体を加速させる力でした
✅ プロの世界では、女子のコースは男子の約90%の長さ。でも女子の飛距離は男子の約86%。つまり女性のほうが、相対的に長いコースを戦っています
「回す」ための体づくりについては、3部作にまとめています。今回はその続きにあたる話です。 👉 回すのは腰ではなかった(可動域と筋力・第1回)
目次
- 同じハンデの男女29人を、まるごと測った
- 女性が柔らかかったのは、13のうち3つだけ
- そして「効く方向」の柔らかさは、同じだった
- 差がついたのは「速さ」だった
- 正直に書いておきたい、この研究の弱いところ
- プロの世界では、コースのほうに問題があった
- 現場で見てきたこと
- では、何をすればいいのか
- おわりに
- 参考にした情報
同じハンデの男女29人を、まるごと測った
ニューヨークのスポーツ医学研究所(NISMAT)が行った研究です。
集めたのは、腕前の高い男性13人と女性16人。ここが大事なところで、両者のハンディキャップに差はありませんでした。年齢にも差はありません。
つまり「同じくらい上手な男女」を比べています。
そのうえで、次のものを全部測りました。
- 柔軟性……13種類の検査(前後の方向4つ、横の方向4つ、ねじる方向5つ)
- 筋力……肩6項目、股関節5項目
- スイングの動き……骨盤と体の角度・速さ・加速
- 足が地面を押す力……床に埋めた測定板で、左右別々に
- 結果……レーダー式の計測器で、ヘッドスピード・ボール初速・飛距離
結果、ヘッドスピードもボール初速も飛距離も、男性が上でした。 ハンディキャップは同じなのに、です。
同じ腕前なのに、飛距離だけ違うんですか?
そこがこの研究の面白いところなんです。飛ばないぶんを、別のところで取り返して同じスコアになっているわけですね。
あとで出てきますが、女性は方向性でお返ししています。プロの数字を見ると、それがはっきり出ています。
女性が柔らかかったのは、13のうち3つだけ
さて、柔軟性です。
「女性のほうが柔らかい」。これは半分あたっていて、半分は違いました。
| 柔軟性の検査 | どんな動きか | 結果 |
|---|---|---|
| 前後の方向(4種類) | 前屈や後屈のように、体を前後に曲げ伸ばしする動き | 1つだけ女性が柔らかい |
| 横の方向(4種類) | 開脚や体を横に倒すように、左右に広げる動き | 2つ女性が柔らかい |
| ねじる方向(5種類) | 股関節や肩、体を軸まわりにひねる動き | すべて男女差なし |
※どの検査をどう行ったかまでは、論文が有料のため確認できませんでした。ここでは「どの方向の動きか」だけをご紹介しています。
13の検査のうち、女性が上回ったのは3つだけでした。
そして、いちばん大事なところ。ねじる方向は、5つすべてで差がありませんでした。
そして「効く方向」の柔らかさは、同じだった
なぜ、ねじる方向が大事なのか。
同じ研究グループが、2022年にこんな結果を出しています。
ゴルフの上手さと関係していたのは、ねじる方向の柔らかさだけでした。前後の柔らかさも、横の柔らかさも、上手さとは関係がありませんでした。
さらに、股関節のねじる方向の柔らかさだけで、ボール初速のばらつきの48%、飛距離のばらつきの45%を説明できたと報告しています。
ここを、今回の結果と重ねてみてください。
- 女性が余分に持っていた柔らかさ=前後と横=ゴルフの上手さとは関係が薄い方向
- ゴルフに効く柔らかさ=ねじる方向=男女で差がなかった
じゃあ、開脚が得意でも意味がないということですか……。
ゴルフの飛距離という一点では、そうかもしれません。 ただ、開脚や前屈が無駄という話ではないんです。腰やひざを守るうえでは、どちらも大切です。
お伝えしたいのは、「やわらかいのに飛ばない」のは、あなたの努力が足りないからではないということです。測っている方向が、ゴルフに効く方向とずれていただけなんですね。
差がついたのは「速さ」だった
では、何が違ったのか。研究チームが挙げたのは、この2つでした。
・地面を「素早く」押す力
右打ちなら左足、つまり前側の足が地面を押す力です。
ここで大事なのは、どれだけ強く押せるかではなく、どれだけ速く踏み込めるかでした。同じグループの過去の研究では、上手でないゴルファーほど、力が最大になるまでの時間が長いことが分かっています。
強さではなく、立ち上がりの速さ。ここに差がありました。
・骨盤と体を加速させる力
もうひとつは、ダウンスイングで骨盤と上半身を加速させる勢いです。回るかどうかではなく、どれだけ急に回れるか。
研究の結論は、原文でこう書かれています。
地面からより素早く力を生み出す能力と、ダウンスイング中に骨盤と体幹を加速させる能力が、男女のゴルファーを最もよく区別した。
ここは正確に受け取りたいところです。著者は「柔軟性は関係なかった」とは書いていません。「いちばんよく違いを説明したのは、柔らかさではなく速さだった」と書いています。

なお、筋力では肩の6項目すべてと、股関節の5項目中2項目で男性が上回っていました。ここは体格の差もありますから、驚く結果ではありません。
正直に書いておきたい、この研究の弱いところ
いつもどおり、弱点も書いておきます。
- 29人(男性13人・女性16人)という、とても小さい研究です
- 対象は腕前の高いゴルファー。ふつうのアマチュアにそのまま当てはまるとは限りません
- 一度に何十項目も検定しているので、たまたま差が出たものが混じっている可能性があります。「13のうち3つで女性が柔らかい」も、この目で見ると慎重に扱うべき数字です
- 男性のほうが背が高く、体重も重い。体格の影響と「速さ」の影響を、きれいに分けられているかは分かりません
- ある一時点で測った研究なので、「速く踏めるようにすれば飛ぶようになる」とまでは証明していません
それでも私がこの研究を取り上げたいと思ったのは、男女の差を「体格が違うから」で終わらせず、どこがどう違うのかを測ったからです。前後・横・ねじる、と方向を分けて調べたからこそ、「効く方向の柔らかさは、同じだった」が見えてきました。
なお、ヘッドスピードなどの実際の数値は論文が有料で公開されていないため、この記事では書けません。かわりに、別の研究で実測された数字を紹介します。
男女のトップ選手41人をレーダーで測った研究では、ドライバーのヘッドスピードは
- 男性……秒速51メートル(時速185km)
- 女性……秒速43メートル(時速155km)
その差、およそ19%でした。
日本でよく使う「40メートル」という言い方に直すと、男子のトップは51m/s、女子のトップは43m/sということになります。
プロの世界では、コースのほうに問題があった
もうひとつ、まったく別の角度から男女差を調べた研究があります。ノルウェーの研究者が、米国男子ツアー全50試合と米国女子ツアー全32試合の記録を分析したものです。
| 女子ツアー | 男子ツアー | 女子は男子の | |
|---|---|---|---|
| 平均飛距離 | 257ヤード | 300ヤード | 86% |
| フェアウェイキープ率 | 73.6% | 60.1% | 122% |
| パーオン率 | 68.7% | 66.3% | 104% |
| コースの全長 | 6,566ヤード | 7,303ヤード | 90% |
見ていただきたいのは、いちばん上の行と、いちばん下の行です。太字にした2つの数字を並べてみてください。
コースは約90%に縮められている。でも、女性の飛距離は約86%しかない。
つまり縮め方が足りていない。研究者はこう結論づけています。「女子のコースは体格や生理機能に見合った縮小がされておらず、ゴルフは女性にとってより過酷なままである」。
面白いのは、パー3のスコアだけは男女でまったく差がなかったことです。パー3は距離の影響がいちばん小さいホールですから、距離の条件が近づくと、差が消えるということになります。
フェアウェイキープ率は、女子のほうがずっと高いんですね。
73.6%と60.1%。ここは女子が圧倒しています。
飛距離だけを並べると「女性は不利」に見えますが、実際には曲がらないという強い武器を持っているわけです。そしてより長いコースを、その武器で戦っている。私はこの数字を見て、見方が変わりました。
現場で見てきたこと
理学療法士として体を測る仕事をしていると、測りやすいものばかり測ってしまうという落とし穴があります。
前屈は簡単に測れます。開脚も測れます。だから、そこばかり見てしまう。
でも「どれだけ速く踏めるか」は、道具がないと測れません。 測れないものは、話題にもなりません。そうやって、助言が「もっと柔らかく」に寄っていくのだと思います。
女性のゴルファーから「柔らかいのに飛ばない」と言われたとき、私も長いあいだ、はっきりした答えを返せませんでした。この研究を読んで、ようやく言葉が見つかった気がしています。
足りないのは柔らかさではなく、素早さかもしれません。
では、何をすればいいのか
ここまで読んで、「じゃあ何をすれば」と思われたと思います。答えは、実はこのブログでもう書いています。
地面を素早く押すというのは、これまでの「地面反力」シリーズの中心テーマそのものです。
地面をどう使うかについては、3部作でくわしく書いています。今回の研究は、その内容を別の角度から裏づけたことになります。 👉 飛ばす人は"地面"を使っている(地面反力・第1回)
そのうえで、今日から足せることを3つだけ。
- ☑ 「強く」ではなく「速く」を意識する……素振りのとき、力を込めるのではなく、踏むタイミングを早くしてみてください
- ☑ 止まってから振らない……アドレスで固まると、力の立ち上がりが遅くなります。小さく足踏みしてから始動するほうが、体は反応しやすくなります
- ☑ ねじる方向の柔らかさを保つ……効くのはこの方向です。前屈より、胸と股関節をねじる動きを大事にしてください
※体に痛みのある方、持病のある方は、新しい運動を始める前に主治医にご相談ください。
👟 「地面を押す」は、靴から始まっています
素早く踏み込む話をしてきましたが、その力を受け止めるのは靴底です。ここが滑ってしまうと、体はどれだけ鍛えても力を出しきれません。無意識にブレーキをかけてしまうからです。
すり減ったスパイクを履き続けている方は、意外に多いところです。靴底を一度、裏返して見てみてください。
ゴルフシューズ(スパイクタイプ)
靴底に鋲(びょう)がついたタイプです。鋲は減っていくものなので、交換できるモデルを選ぶと長く使えます。鋲のないスパイクレスは歩きやすく、そのまま運転もできるのが利点。雨や傾斜の多いコースを回ることが多いかどうかで、選び分けるとよいと思います。
🪑 踏む力を、家で確かめる
「速く踏む」は、外に出なくても感覚をつかめます。不安定なクッションの上に片足で立ってみると、自分がどれだけ足の裏を使えていないかがすぐ分かります。
バランスディスク(体幹・バランストレーニング用クッション)
空気の量でかたさを変えられるクッションです。まずは壁に手をついて、片足で10秒立つところから。ふらつく方は、床に置くだけの状態から始めてください。転ばないよう、必ず支えのある場所で。
おわりに
「体はやわらかいのに、なぜ飛ばないのか」
答えは、やわらかさが足りないのではなく、ゴルフに効く方向のやわらかさは、もともと男女で変わらなかったということでした。差がついていたのは、地面を押す速さと、体を加速させる勢い。
そしてもうひとつ。プロの数字が教えてくれたのは、女性は曲がらないという武器で、相対的に長いコースを戦っているということです。
飛距離だけを見て「かなわない」と思う必要は、まったくないと思います。測る場所を変えれば、見える景色も変わります。
29人の小さな研究ですから、これで結論が出たわけではありません。それでも、「もっと柔らかく」と言われ続けてきた方には、少し肩の荷が下りる話ではないでしょうか。
参考にした情報
- McHugh MP, Maisel MB, Orishimo KF, Kremenic IJ, O’Mahoney CA(NISMAT)「Sex differences in golf performance, flexibility, strength and swing biomechanics」Journal of Strength and Conditioning Research 2026年(オンライン先行公開、DOI: 10.1519/JSC.0000000000005576)/男性13人・女性16人
- McHugh MP ほか「Transverse plane flexibility and golf proficiency」Journal of Strength and Conditioning Research 2022年;36(2):e49-e54
- McHugh MP ほか「Biomechanical metrics of golf proficiency」Journal of Strength and Conditioning Research 2024年;38(3):599-606
- Villanen J, Pedersen AV(ノルウェー科学技術大学)「Sex differences in golf performance and course scaling」PLoS ONE 2026年5月11日;21(5):e0323074(DOI: 10.1371/journal.pone.0323074)/PGA全50大会・LPGA全32大会
- Johansen ほか「Clubhead speed in elite golfers」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2026年;36(3):e70255/男女41人のレーダー実測
※この記事は、公表されている研究をもとに、ゴルファー向けにやさしく言い換えたものです。体に痛みや不調があるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。