「練習場に着いたら、まずドライバーでフルスイング」——心当たり、ありませんか?
ツアーの試合前の練習場では、女子プロたちはボールを打つよりも先に、バットのような棒やゴムチューブを使った準備運動に、たっぷり時間をかけています。ゴルフ雑誌やSNSで紹介される練習風景でも、おなじみの光景です。
あの道具、いったい何のために使っているのでしょうか。今回から始まる新シリーズ「女子プロの秘密道具」。第1回は、体のしくみの面から「なぜあの道具が効くのか」をひもときながら、アマチュアの私たちが真似できるポイントをご紹介します。
この記事のポイント
✅ 「いきなりドライバー」は、体が目覚めていないうちの全力運動。ミスもケガも招きやすくなります
✅ プロの定番は「重い棒をゆっくり振る」「ゴムチューブで肩まわりを動かす」の2本柱
✅ 記事の最後に、練習場で真似できる「打つ前5分」の手順をまとめました
なぜ「いきなりドライバー」は損なのか
練習場は時間もお金も限られてるので、ついすぐ打ち始めちゃうんですよね……
その気持ち、よくわかります。でも実は、最初の10球を準備運動に置き換えるほうが、トータルでは得なんです。理由は、体のしくみにあります。
朝や動き始めの筋肉・関節は、いわば冷えたゴムのような状態です。温まる前のゴムは硬くて伸びにくく、急に引っぱると傷みやすい——筋肉もそれと同じで、温まる前にいきなり全力のスイングをすると、こんなことが起こります。
- 体が回りきらないまま振るので、手打ちのクセがその日一日ついてしまう
- 硬い筋肉に急ブレーキ・急発進をかけるので、腰や肩・肘を痛めやすい
- 最初の数球のミスで「今日は調子が悪い」と思い込み、力んでさらに崩れる
ゴルフのスイングは、止まった状態から一気に体をひねる、実はかなり激しい全身運動。だからこそプロたちは、打つ前の準備に道具まで持ち込んで、体を丁寧に目覚めさせているのです。
秘密道具①:素振り用バット——「重い」からこそ効く
ツアー会場でいちばんよく見かけるのが、野球のバットに似た素振り用の練習バットです。中でも「AZAS(アザス)」というトレーニングバットは、重さがありながらしなやかに振れて、バットの中央で色が分かれているためフェースがスクエアに当たる感覚をイメージしやすいのが特長で、多くのツアープロに愛用されています。
えっ、重いものを振るんですか? 速く振る練習は「軽いもの」って前に読んだような……
よく覚えていましたね! でも目的が違うんです。軽い棒は「速さの練習」、重い棒は「体を目覚めさせる準備」。重いものは腕先だけでは振れないので、体が自然と正しい順番で動いてくれるんですよ。
体のしくみから見ると、重い棒をゆっくり振る効果は大きく2つあります。
- 大きい筋肉から順番に動き出す 重い物は手先の力だけでは振れません。お尻・太もも・背中といった体の大きい筋肉を先に使わないと動かないため、「下半身→体幹→腕」というスイング本来の順番が、自然と体に呼び起こされます。
- リズムとタイミングの“体内時計”が整う ゆっくり大きく振ることで、その日のスイングのテンポの基準が体の中にできます。時計の振り子を最初に大きく揺らして動き出させるようなもので、体も温まり、その後の実打が安定しやすくなるのです。
AZAS DRIBAT(アザス ドライバット)ゴルフ用トレーニングバット
ツアープロの試合前練習でおなじみの素振り用バット。重さでスイングの「正しい順番」を呼び起こし、中央の色分けでスクエアなインパクトのイメージづくりもできます。朝イチのラウンド前・練習前の数振りに。
秘密道具②:ゴムチューブ・エキスパンダー——肩甲骨を目覚めさせる
もうひとつの定番が、ゴムチューブ(エキスパンダー)です。プロたちは両手でチューブを引っぱって、肩や肩甲骨(けんこうこつ)まわりを入念に動かしています。「首から下で、うまく回転運動ができるようにする」——つまり腕ではなく体全体で回るための準備として使われているのです。中には、両足にチューブを巻いて、スイング中の体の左右のブレを抑える練習に使う選手もいます。
肩甲骨って、スイングとそんなに関係あるんですか?
大ありです。肩甲骨は背中の上で浮くように動く骨で、ここがよく滑ると、胸まわり・骨盤と連動して体全体がなめらかに回れるんです。逆にここが硬いと、回転の足りない分を腕と腰で無理やり補うことになります。
体をひねる動きは、骨盤→胸まわり(胸郭)→肩甲骨→腕というリレーでできています。肩甲骨はこのリレーの中継地点。ここの動きが目覚めていないと、トップで腕だけが上がる「手上げ」になったり、腰に負担が集中したりします。
チューブの良いところは、軽い抵抗がガイド役になってくれること。何も持たずに腕を回すより、ゴムの張りを感じながら動かすほうが、肩甲骨まわりの筋肉にしっかり「今から使うよ」という合図を送れます。硬めの方も、ゴムの弱い抵抗からゆっくり始めれば大丈夫です。
トレーニングチューブ(エキスパンダー・強度別セット)
肩・肩甲骨まわりの準備運動の定番。軽い抵抗を感じながら腕を開く・回すだけで、スイングの回転を支える背中まわりが目覚めます。強度別セットなら、硬めの方は弱いチューブからやさしく始められます。
秘密道具③:トライワンスティック——左右の重さで「回転」を仕込む
3つめは少し珍しい道具、「トライワンスティック」です。両端にグリップがついた1本のスティックで、左右で重さが異なるのが最大の特徴。持ち替えるだけで違う重さの素振りができ、腕の回転運動の練習や、素振りの効果を高める目的で使われています。
重い側を持てば体の大きな筋肉を呼び起こす準備運動に、軽い側を持てば腕をスムーズに返す回転の練習に。1本で「目覚まし」と「動きづくり」の両方をこなせる、いいとこ取りの道具といえます。
ロイヤルコレクション トライワンスティック(両端グリップ・重さ違い)
左右で重さが異なる両端グリップのスティック。持ち替えるだけで「重い素振り」と「軽い素振り」を1本でこなせます。腕の回転をなめらかにしたい方、ウォームアップを1本で済ませたい方に。
練習場で真似できる「打つ前5分」
道具の意味はわかりました。でも、明日の練習で何をすればいいですか?
では、道具がなくても今すぐできる形で、打つ前の5分メニューにまとめますね。プロの準備の「順番」だけ真似すれば、効果はしっかり出ますよ。
- 体を温める(1分)……その場で軽く足踏み。肩を大きく前後に10回ずつ回し、脚の付け根(股関節)も、膝で大きく円を描くようにゆっくり5回ずつ回します
- 肩甲骨の目覚まし(1分)……両腕を胸の前で伸ばして背中を丸め、次に腕を開いて胸を張る。ゆっくり10回。チューブがあれば軽く引きながら
- ひねりの準備(1分)……クラブを肩にかつぎ、下半身を止めて上半身だけ左右にゆっくりひねる。10往復
- 重い素振り(1分)……素振り用バットがあればゆっくり5〜10回。なければアイアン2本をそろえて持ち、同じようにゆっくり大きく振ります
- 実打はウェッジから(1分〜)……短い番手の小さいスイングから始め、徐々に番手を上げてドライバーへ
ポイントは、「温める→肩甲骨→ひねり→重い素振り→短い番手」の順番です。この5分があるだけで、最初の10球の質が変わり、腰や肩・肘のケガ予防にもつながります。硬めの方は、それぞれの動きをさらにゆっくり・小さめから始めれば大丈夫です。
おわりに
女子プロの「秘密道具」は、魔法の道具ではありません。体のしくみに沿って、正しい順番で体を目覚めさせるための、理にかなった相棒たちでした。まずは道具なしの「打つ前5分」から。気に入ったら、バットやチューブを少しずつそろえていくのがおすすめです。
シリーズ「女子プロの秘密道具」は、あと2回続きます。
- 第1回(今回) = ウォーミングアップ編:試合前の準備に使う道具たち
- 第2回 = スイング&パター編 :手打ちに効く練習器具の仕組み
- 第3回 = 夏のコンディショニング編 :猛暑のゴルフを乗り切る秘密道具
どうぞお楽しみに。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。トレーニングの効果には個人差があります。持病のある方や、痛み・不調が続く場合は、自己判断せず医師・専門家にご相談ください。