1メートルのパットを外した日の帰り道。
「ストロークがぶれたのかな」「手首を使いすぎたかな」と、腕や手の動きばかり振り返っていませんか。
私もそうでした。ところが、パットの研究をさかのぼってみると、上手な人とそうでない人の違いは、腕より先に「目の使い方」に出ていたのです。
今回は、打つ前のわずか2〜3秒の話です。道具もお金もいりません。
この記事のポイント
✅ 上手な人は、打つ前にボールの後ろの一点を2〜3秒、静かに見つめ、打ったあとも一瞬そこを見続けています。これを「クワイエット・アイ」(静かな目)と呼びます
✅ この目の使い方を1回教わっただけで、上級者は試合でのパット数が1ラウンドあたり約1.9打減りました
✅ ただし、研究はどれも若い人・約3メートルのパットです。「長く見れば必ず入る」わけではないことも、正直にお話しします
パットのときの体の使い方は、こちらで取り上げました。今回は「目と脳」の話です。 👉 飛距離は20位。それでもメジャーで勝てた(桑木志帆選手・後編)
目次
- 上手な人は、どこを見ているのか
- 1回教わっただけで、試合のパット数が減った
- 緊張する場面で、差がついた
- 初心者でも、1週間後まで続いた
- 正直に書いておきたい、研究の限界
- 装置で脳を整える訓練は、どうなのか
- 研究で使われた手順を、家で試す
- 老眼や遠近両用メガネは関係あるの?
- おわりに
- 参考にした情報
上手な人は、どこを見ているのか
始まりは、1992年の研究です。
研究者のジョアン・ヴィッカーズ先生は、ゴルファーに視線を記録するメガネをかけてもらい、3メートルのパットのあいだ、目がどこを見ているかを調べました。
すると、上手な人とそうでない人で、はっきり違いが出ました。
- 上手な人 … ボールとカップを見る時間が長く、クラブや地面をきょろきょろ見る回数が少ない
- そうでない人 … あちこちを、同じくらいの短い時間ずつ見ている
のちにこの研究は、「上手な人は、打つ前にボールの後ろを約2秒見つめ、打ったあともしばらく同じ場所を見続けていた」と紹介されるようになります。
この「動き出す直前に、ひとつの場所を静かに見つめる時間」を、ヴィッカーズ先生は「クワイエット・アイ」(静かな目)と名づけました。

見る場所なんて、ボールに決まっているんじゃないですか?
そう思いますよね。でも、実際に視線を記録すると、カップ、ライン、ヘッド、足もと……と、目はけっこう落ち着きなく動いているんです。上手な人は、最後に見る場所がひとつに決まっていて、そこで目が止まっている。「どこを見るか」より「最後に目が止まっているか」が大事なんですね。
1回教わっただけで、試合のパット数が減った
この「目の使い方」は、教えて身につくのでしょうか。
イギリスの研究グループが、それを確かめました(2011年)。対象は、ハンディキャップ平均2.7の男性の上級者22人です。
くじ引きで2つのグループに分け、
- クワイエット・アイを教わるグループ(12人)… 自分の視線の映像と上級者の視線の映像を見て、「ボールの後ろを2〜3秒見つめる」などの手順を教わる
- 比べるグループ(10人)… 自分の視線の映像は見るが、目の使い方の指導は受けない
教えたのは1回だけです。その前後の実際の試合10ラウンドずつで、パットの記録をつけてもらいました。
結果、クワイエット・アイを教わったグループは、1ラウンドあたりのパット数が約1.9打減りました。比べるグループは、変わりませんでした。
1回教わっただけで、2打も減るんですか?
数字だけ見ると驚きますよね。ただ、ここは少し割り引いて読んでください。パット数は本人がつけた記録で、寄せが上手くいった日はパット数も減ります。研究チーム自身も「パットだけの力とは言い切れない」と書いています。それでも、練習場ではなく本番の試合で差が出たのは、大きな意味があると思います。
緊張する場面で、差がついた
この研究には、もうひとつ大事な結果があります。
研究室に戻ってもらい、「成績を発表する」「賞金を出す」などのプレッシャーをかけた状態で、約3メートルのパットを打ってもらいました。
- クワイエット・アイを教わったグループ … 見つめる時間は約2.8秒のまま保たれ、約60% が入った
- 比べるグループ … 緊張で見つめる時間が約1.4秒に縮み、入ったのは約36%

緊張すると、目が落ち着かなくなる。目が落ち着かないと、入らなくなる。 研究チームは、見つめる時間の長さで、パットの成績のばらつきの43%を説明できた、と書いています。
「大事な場面になると入らない」
その原因のひとつは、腕ではなく、目が先に落ち着きを失っていることなのかもしれません。
初心者でも、1週間後まで続いた
上級者だけの話ではありません。
2025年、オーストラリアのグリフィス大学で、ゴルフ初心者の大学生46人を対象にした研究が発表されました。約3メートルのパットで、クワイエット・アイの手順を教わった人たちは、
- カップに入る数が増えた
- 外れたときも、カップからの距離が近くなった
- その効果は、1週間後の測定でも続いていた
という結果でした。
ただ、この研究では正直な注意書きがついています。これは次の章でまとめてお話しします。
正直に書いておきたい、研究の限界
よい話ばかりではありません。気になる点をまとめておきます。
- 研究の対象は、どれも若い人です(平均20代)。中高年のゴルファーで確かめた研究は、見つかりませんでした
- パットの距離は、どれも約3メートルです。10メートルのロングパットで同じかは分かりません
- 初心者の研究では、教わった人たちは最初の成績がもともと低く、あとから追いついた形でした。また、実際のパットでは見つめる秒数そのものは伸びていなかったため、研究チームは「効いたのは、一緒に教えた構えの指示のほうかもしれない」と書いています
- トップアマ28人を調べた2024年の研究では、入った球も外れた球も、見つめる時間の長さは同じでした。違いが出たのは、打つ直前の脳の状態(迷いの強さ)のほうでした
つまり、「長く見れば必ず入る」わけではありません。私の受け取り方はこうです。目を止めることで、迷いを断ち切って打てる。 大事なのは、秒数よりも、毎回同じ手順で、迷わず打ち出せることなのだと思います。
パットのイップスにも効きますか?
クワイエット・アイでイップスが治った、という研究は見当たりませんでした。 むしろ、手が勝手に動いてしまうタイプのイップスでは、「ボールではなくカップを見て打つほうが良かった」という小さな研究もあります。手の震えやこわばりが続く方は、別の問題の可能性がありますので、医療機関に相談してみてください。
装置で脳を整える訓練は、どうなのか
最近は、脳波を測りながら「集中した脳の状態」を練習する訓練(ニューロフィードバック)も研究されています。2026年には、パットでのこうした訓練の研究12本をまとめた報告が出ました。
ただ、その中身を読むと、
- 研究ごとの結果のばらつきがとても大きい
- 訓練のやり方によっては、かえって成績が下がったものもある
- ふつうの練習法でも、同じくらいの効果が出ていた
という内容でした。高価な装置を買う前に、まずは目の使い方と、ふつうの練習。今の研究から言えるのは、そのくらいだと思います。
研究で使われた手順を、家で試す
研究で実際に使われた手順は、次の5つです(2011年・2025年の研究とも同じ手順を使っています)。
クワイエット・アイの5つの手順
① 構えたら、目がボールの真上にくるように立つ
② カップを見る。見るのは3回まで
③ 最後に、ボールの後ろ側の一点を見つめる。打ち始める前から2〜3秒
④ テークバックとフォローのあいだ、ヘッドを目で追わない
⑤ 打ったあともほんの一瞬(0.2〜0.3秒)、ボールがあった芝の上を見続ける
研究では、視線を測る特別なメガネを使っていました。家で自己流にやって同じ効果が出るかは、まだ確かめられていません。そのうえで、試すときのコツをお伝えします。
- 距離は3メートル前後から。研究と同じ距離です
- 「いち、に」と心の中で数えてからテークバックを始めると、2〜3秒の感覚がつかみやすくなります
- 打ったあと、音を聞いてから顔を上げるくらいのつもりで。⑤の「一瞬見続ける」が自然にできます
⑤は、以前ご紹介した「頭を動かさない」練習ともつながっています。目が止まっていれば、頭も止まりやすいからです。
家で練習するなら、2〜3メートルのパターマットがあると、研究と同じくらいの距離で続けられます。
室内用のパターマット
研究で使われたパットは、どれも約3メートルでした。長さ2〜3メートルのマットなら、同じくらいの距離で、目の手順を毎日くり返せます。丸めて片づけられるタイプが扱いやすいです。
手順①の「目がボールの真上にくる」を確かめるには、ボールの位置に置いて上からのぞき込むパッティングミラーが便利です。
パッティングミラー
床に置いた鏡に自分の目が映るので、構えたときに目がボールの真上にあるかが、ひと目で分かります。研究で使われた器具ではありませんが、手順の①を確かめるのに向いています。
打ったあと頭が動いていないかを見るなら、帽子に付けるレーザーもあります。
ツアーレーザー(パターマット工房)
帽子に取り付けて、パットのあいだの頭のブレを目で見えるようにする器具です。クワイエット・アイの研究で使われたものではありませんが、手順⑤の「打ったあとも見続ける」ができているかの確認に役立ちます。
老眼や遠近両用メガネは関係あるの?
中高年のゴルファーなら気になるところだと思います。調べた範囲でお伝えします。
- 少しピントがぼけても、パットの正確さはほとんど変わらなかったという研究があります(2008年)。ただし若い人のデータで、ひどくぼけたときだけ悪くなりました
- 遠近両用メガネでパットが悪くなる、という研究は見つかりませんでした。49〜69歳の6人を調べた小さな学会発表では、レンズの種類で目の動きに差はなかったそうです
- ただ、遠近両用は見る場所によってピントの合う距離が変わります。構えたときにボールがはっきり見えているかは、一度確かめておくとよいと思います
最近、グリーンの傾斜が見えにくい気がして……。
それはパットの技術とは別に、目そのものの変化のことがあります。白内障などで、明暗の差が見えにくくなることもあります。見え方が急に変わった、ゆがんで見える、片目だけ見えにくいといったときは、一度眼科で診てもらってくださいね。
おわりに
パットを外したとき、私たちはつい、腕や手首を直そうとします。
でも研究を読むと、その前に「目」が落ち着いていたかどうかが、大きく関わっていそうです。ボールの後ろの一点を、2〜3秒。打ったあとも、一瞬そこに。
研究はまだ若い人ばかりで、「これで必ず入る」とは言えません。それでも、道具もお金もいらず、今日のラウンドから試せるのが、この方法のいいところです。
次のグリーンで、一度「目を止めて」打ってみてください。
パットの大切さについては、こちらもどうぞ。 👉 飛距離147位の選手が、賞金3位にいる(山下美夢有選手・後編)
参考にした情報
- Vickers JN「Gaze control in putting」Perception 1992年
- Vine SJ, Moore LJ, Wilson MR「Quiet eye training facilitates competitive putting performance in elite golfers」Frontiers in Psychology 2011年;2:8(DOI: 10.3389/fpsyg.2011.00008)
- Bennett JB, Neumann DL, Stainer MJ「Quiet Eye Training in Virtual Reality and in the Real-World」Human Movement Science 2025年;102:103370
- Carey ら「Commit to your putting stroke: exploring the impact of quiet eye duration and neural activity on golf putting performance」Frontiers in Psychology 2024年
- Li Z ほか「Effects of EEG neurofeedback and training interventions on golf putting performance: a systematic review and meta-analysis」Frontiers in Psychology 2026年;17:1736851
- Bulson RC, Ciuffreda KJ, Hung GK「The effect of retinal defocus on golf putting」Ophthalmic and Physiological Optics 2008年
- Adler CH ほか「Dystonic Golfer’s cramp: Pilot study of propranolol and looking at the hole」Parkinsonism & Related Disorders 2020年
※この記事は、公表されている研究をもとに、ゴルファー向けにやさしく言い換えたものです。目の見え方の変化や手の震えが気になるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。